1948(昭和23年)/2/25公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
小倉武志のプロデュース作品で、新藤兼人のシナリオ、吉村公三郎が監督、撮影は生方敏夫。吉村としては終戦後第三回作品。出演者は原節子、佐分利信、山内明、「大曽根家の朝」「情炎(1947)」「手をつなぐ子等(1948)」の杉村春子などである。
青年代議士矢島隆吉は恩師人見敬太の新しい墓標に詣でた時、遺児孝子に会い医専に通う彼女の学業と生活を助けるためにあらゆる援助を申し出た。家庭教師の名目で隆吉の家の人となった孝子は子供たちにも慕われ家庭に明るい灯を灯した。孝子のただ一つの気がかりは神田の下宿を引き払う時、医大の学生武田三郎が学資稼ぎのヤミ行為が発覚して捕らわれたことだったが隆吉は気持ちよく罰金を出してやった。隆吉には妻時枝がいたが、胸の病のため海辺の療養所にいるので、月一回子供たちとともに訪れるのを楽しみにしていた。ある日孝子も伴って療養所を訪ねた時、時枝は彼女の健康と美貌にたまらない羨望を覚え、同時にこみあげる嫉妬の念をどうする事も出来なかった。やがて選挙の応援に出かけた隆吉は過労がたたって旅先で倒れた。電報を手にかけつけた孝子の前には意外にも元気な彼がいた。その夜同宿を余儀なくされた温泉宿で、彼女は隆吉の勧めるままに酒を飲み踊った。抱いた隆吉の手に加わる力、熱いまなざし-全てを知った孝子は逃れるように東京に帰り、隆吉もまた後を追った。許されるべき恋ではない、しかし押え切れない愛情に二人はしかと抱き合った。その時ドアを開けて入って来た時枝は嫉妬に狂って孝子を罵倒した。たまりかねた孝子は家を出て元の下宿に戻ったが、そこには罪は晴れたが罪ゆえに学業と東京を捨て寂しく田舎に帰る武田が忙しげに旅仕度をしていた。