1948(昭和23年)/4/4公開 67分
配給:松竹 製作:松竹株式会社
小倉武志のプロデュース。木下恵介が自ら脚本並びに監督に当たり、撮影は楠田浩之が担当。キャストは水戸光子、小沢栄太郎の主演で、特にこの作品は、オール・ロケーションを敢行し、出演者も二人と限定され、女の心理描写をテーマとするなど、当時の日本映画としては珍しい試みがなされた。
男性の重圧に反発しつつ、正しく生きることを願う女、敏子は雄々しくも強い自己本来の魂に目覚めていた。レビューの踊子敏子はやくざの町田の命令で箱根まで無理矢理に連れられていった。町田は足を怪我したらしくびっこをひいていた。駅ですれ違った町田の友人二人と、車中で見た三人組強盗の新聞記事。敏子は女の敏感さで、そこにただならぬものを感じるのだった。箱根に着いたと思ったら、もう直ぐ浜松に行こうという。敏子の手を握っている町田の手は完全に一人の女の運命をつかんでいるのだ。それはいくらあがいても逃がれることの出来ないクモの糸の如く、町田の触手は執拗だった。どうしても悪事を働いた人間とは思われぬほど無邪気に笑っている町田を見る時、敏子は恐ろしさにぞっとした。卑怯者!世間知らずのショップガールをだまし、バーからダンサーと転々と渡り歩かせ、男から金をしぼらせ、前借りをふみ倒させては逃げさせ、男故に転落して行く敏子。その転落の中にあっても敏子は絶えず、正しく生きるために町田と別れる以外の道のないことを知っていた。しかしその度に哀れっぽい町田の甘言にほだされる弱い女でもあった。熱海で途中下車したものの、町田は更生を誓ったそばから火事場騒ぎにつけ込んで、またしても窃盗を働いた。敏子はこの男の目から自己の将来をはっきり見とることが出来た時、あの人は強盗です。つかまえて下さい!!と絶叫していた。
毎日映画コンクール監督賞(木下恵介)