1948(昭和23年)/5/7公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
製作は細谷辰雄で、岡田日出男の原案から新藤兼人が脚本を書き、大庭秀雄が監督。撮影は生方敏夫が担当した。主演は宇佐美淳、津島恵子で、それに清水一郎、杉村春子、その他、逢初夢子、殿山泰司などが出演。
売れない小説を書いてアパート中の笑い者にされている丸木文夫は、混濁の世の中を立て直す「偉大なるX」を信じて、同じくこのアパートに転がりこんできた貧乏画家の裕吉とともにX運動をはじめるが、どこへ行っても狂人の寝言として相手にされない。管理人の娘の千代とダンサーに食わせてもらっている失業者の松下だけが文夫の説を支持したが、あとは「犯罪のない社会」も「平和国家」も信じず、混濁の世の中に混濁の生き方を続けていこうとするものばかりだ。放送局の街頭録音に登場したことから「偉大なるX」は新聞種となり、これに対抗する怪盗Xなるものも東京に現われて、両極端に立つ二つのXはセンセーショナルな話題となった。文夫はX氏を自分の方から誘い出そうとして日比谷でX氏講演会をひらくことにした。警察では空想の人物で世の中を惑わすものとして文夫たちを召喚し、精神病者と鑑定されたが、独房で文夫と語って何ものかを感じた署長の計らいで釈放され、予定の如く講演会は開かれた。「偉大なるX」を信じるものと嘲笑する者の大群衆に取りまかれた日比谷に刻々と開会時間は迫る。定刻、偉大なるX氏は万雷の拍手のうちに出現、日本の立て直しは日本人個々の胸のうちにある「偉大なるX」の発揚にあると絶叫し、多大の感銘のうちに降壇、そして消え失せた。