1948(昭和23年)/10/26公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
製作は小出孝。三木蒐一の原作『地下鉄伸公物語』より斎藤良輔と「男を裁く女」の荒牧芳郎が協同で脚色し、瑞穂春海が監督する。撮影は布戸章が担当。主演は山内明と井川邦子でそれに逢初夢子、笠智衆、殿山泰司らの他、新人であり第一回の向山和子が出演。
銀座界隈に山田老刑事の温情で更生しているのが椿美容院のマダムお澄、その家に同居している伸吉もかつては地下鉄伸といってならしたスリだったが、今は真面目に働く青年だった。その隣のアザミ洋裁店の京子は弟の啓吉と二人暮らし。京子は伸吉が好きだった。啓吉は近ごろ悪い友人の中根に誘われて麻雀にふけり、不良あがりのヤミ屋南郷に四万円も借金をして、苦しまぎれに京子、啓吉らの恩人であり啓吉の主人である山藤の店の小切手をごまかして南郷にわたしてしまう。南郷はかねて京子に惚れていたので、その小切手をおとりに京子をものにしようとたくらむ。南郷から小切手をみせられた京子は仰天するが四万円の金はどうすることも出来ず、といってそのことが恩人山藤に知れたら生きた気がしないと京子は悲しく決心して南郷の意に従おうとする。この事件を知った伸吉は、南郷のあとをつけまわして生涯やらぬと心に誓った指先で小切手をスリとって京子にかえす。京子は泣いて喜ぶが、しかしそのときは偶然に伸吉のスッた現場をみた山田刑事が伸吉を追ってやって来た。山田刑事は「お前だけは昔の伸にかえると思わなかった、さあこい!」とせっかく更生したと思っていた悔しさと怒りに伸吉をひきたてようとする。しかしマダムのお澄から一切の事情を聞いた山田刑事は、かえって伸吉の背中をたたいて京子のところへ連れていく。