1948(昭和23年)/12/6公開 99分
配給:松竹 製作:松竹株式会社
原作は島崎藤村の小説。小倉浩一郎が製作を担当、板栄二郎の脚本をそのまま使用、監督は木下恵介が、松竹の東西一元化による演出家交流の第一陣として大船から京都へ出張。撮影は楠田浩之。主演は池部良と桂木洋子。その他、滝沢修、清水将夫、永田靖、宇野重吉、北林谷栄、小沢栄太郎、東野英治郎、東山千栄子、村瀬幸子、松本克平が助演、薄田研二も出演する。
巷はあげて自由と平等が叫ばれている文明開花の世の中。しかし因習と偏見は、なお多くの人の心をとらえて放さなかった。水清い千曲川のほとり、ここ飯山町に、夢多い青春を何故か悲しみ、ひと知れず秘密をいだいて陰多い日を送る一青年がいた。彼の名は瀬川丑松、当年二十四歳、新しい教育理念に目覚めて教鞭をとる身であった。だがその秘密、それは彼が「部落」の出であるという事であった。同僚の土屋銀之助は師範時代からの心を許し合った友で、当時の階級差別感を説く部落出の論客猪子蓮太郎に心酔している一青年であったが、その友にすら彼は真実を語れなかった。遠い山奥に一人、息子の出世を夢見てさびしく明暮を送っている父の「隠せ!」「身分を打明けるな」という叱咤は幾度の苦悩の果てにも、頑として彼にこの秘密のきずなをとかなかった。丑松と一緒に蓮華寺に下宿していたお志保は、彼と同じ教鞭をとる風間老の先妻の娘であった。風間は退職を言渡された今となっても「おれは士族だ」と誇示し、明日の糧を求めようとしない。恋した父の様を見るにつけお志保はかえって身分に対する言い様のない反感に憎悪を催すのであった。心の友、そして相引かれる人の進歩的な気持ちに丑松はますます悩まなければならなかった。こうした時父の訃報がもたらされた。
毎日映画コンクール監督賞(木下恵介):毎日映画コンクール男優助演賞(宇野重吉)