1949(昭和24年)/11/8公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
小出孝の製作で、朝日新聞連載小説、舟橋聖一の原作を斎藤良輔が脚本を執筆。監督は渋谷実が担当。撮影には長岡博之が当たる。出演者としては若原雅夫、木暮実千代、杉村春子、佐田啓二、佐分利信、折原哲子らがそれぞれ出演する他、菅井一郎、山村聡、村田千英子らが助演。
銀座裏にあるしょうしゃな洋裁店「ヌーン」の経営者蓼麻美子は、売出し中の画家の緒山栗夫や、某政党の幹事長の大垣をはじめ、社交界においてその美貌と理智の美しさで評判であった。彼女の夫真吉は昔、緒山と友達であったが、今は絵筆を捨て結婚以来十年にもなる。しかしまだ絵には執着をもっていた。それに麻美子は「ヌーン」の経営で蓼家をまかなっているばかりでなく、義父高晴の妾お園のまで面倒見ていたし、高晴の現在の妻辰子は後妻で、吉晴は真吾とは腹違いの兄弟であった。この様な複雑な家で麻美子はいろいろと苦労するばかりなので、気晴らしに良人の友達の緒山達と交際がしげくなっていた。しかし麻美子は真吾に対する愛情は変わりなかった。緒山は昔は真吉と麻美子の事で奪い合ったが、今は彼は芸術の中の美に無我夢中であった。当然噂は噂を呼んで麻美子の弟子能里子につきまとう吉晴の中傷で、蓼家には麻美子の行状が曲解されていた。ちょうどそのころ麻美子は盲腸炎にかかり全快して大垣幹事長の熱海の荘別に静養に行っていた。もちろん緒山はつきまとっていた。真吉は麻美子を信じてはいたものの噂にぐらつき出した。そこで「ヌーン」を無断で東和繊維の社長の服部に売ってしまい、その金でアトリエを買い、絵を再び志すことによって麻美子の関心を緒山から奪い返そうと思っていた。当然能里子も蓼家に帰るのをきらって真吉と同居生活を始めた。麻美子が熱海から帰ると蓼家では麻美子が悪いからだと言って、さんざん悪口を言われたので飛び出してしまった。麻美子と真吉との間はこんな事でますますこじれてしまって、遂に離婚沙汰まで起こった…。