1951(昭和26年)/1/13公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
小倉浩一郎の製作で、大佛次郎の夕刊毎日新聞連載の原作を、依田義賢が脚色、伊藤大輔が監督に当たっている。主な出演は阪東妻三郎、月形龍之介、田中絹代、山田五十鈴、佐田啓二、折原啓子など。
深川の淋しい埋地を、灯もつけずに行ったおぼろ駕篭が二提あった。その夜深川の信濃屋伝右衛門の寮で、御殿女中のお勝が殺されて近くの堀川へその屍骸が投げ込まれていた。現場にあった脇差しから、その夜寮へ訪ねて来たお勝の幼馴染みで、旗本の次男小柳進之助が下手人として嫌疑をかけられた。進之助は無実を主張して逃げたが、家名を重んずる兄や叔父たちにつめ腹をきらされようとして追われていた。町方の岡っ引き門前の亀蔵は、現場でかたばみの紋のついた女物の紙入れをひろった。それは殺されたお勝のものではなくお勝の同僚で、最近お勝と共にどちらかが中臈にあがるだろうと噂をされていた大奥の女中三沢の持ち物であることが、お勝に仕えていた信濃屋の娘お蝶によって明らかにされていた。昔信濃に使われていて、今はコソ泥の蝙蝠の吉太郎は、この夜寮にしのび込んでいて、侍の供を二人つれたもう一台のおぼろ駕篭が、やはり信濃屋の寮へ来て、去って行ったのを知っていた。吉太郎は、粋な雲水坊主として知られている夢覚和尚と、汚れ切った世をすねた旗本本多内蔵介とにこのことを注進した。権勢を傘に着て悪政をほしいままにしている沼田隠岐守の一派が、奥女中三沢を中臈に立てて、更に将軍の内懐に食い入ろうと三沢をおだてあげて競争者お勝を殺させた手の中は充分に読めたが、相手は大物であるため中々手を出せなかった。