1954(昭和29年)/3/24公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
昭和十年から翌年にかけて“主婦之友”誌上に連載され、昭和十二年には田坂具隆監督の手によって映画化(日活多摩川)された山本有三の同名小説の再映画化。製作は小倉武志。椎名利夫の脚本を川島雄三が監督し、高村倉太郎が撮影している。音楽、美術は黛敏郎、浜田辰雄がそれぞれ担当。出演者は山村聡、淡島千景、桂木洋子、佐田啓二、三島耕、多々良純、須賀不二男の他、水村国臣、伊藤久子、若宮崇令、細谷一郎などの少年群が出演。
十八になる守川義平の娘しず子は、大越護との見合いの報告に弟の義夫を連れて伯父河村弥八を訪れたが、そこで家出した母のむつ子に会った。何の事情も知らない義夫は怪訝な眼で彼女を見るのだった。むつ子は以前の愛人との間に出来たしず子を腹に抱えて、義平の許に嫁いで来たのであるが、世間体を飾るだけのこの結婚は義平にとってもむつ子にとっても不幸であった。間もなくむつ子は家出し、現在は浅草でカフェーを経営しながら、今の愛人隅田恭輔の螢光燈の研究を助けていた。この様な理由で大越家から破談されたしず子は傷心の身をむつ子の弟の絵描きの叔父河村素香に訴えた。「姉さんも気の毒な人だよ。みんなが言うようにふしだらな女じゃない、自分の本当の生き方をしたいともがいていたんだ。」素香はそう言って「真実一路の旅なれど」と言う白秋の詩を呟いた。義平の死で葬式に訪れたむつ子は、続いて起こった義夫の盲腸の看護に当たり、そのまま守川家に居ついた。母親の居ない寂しさを味わっていた義夫はよく懐いた。しかしむつ子は矢張り隅田を思い切れず、その事からしず子と折合わず家出した。