1954(昭和29年)/9/1公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
かつて菊五郎劇団が上演した戯曲を久板栄二郎が脚色し、中村登が最初の時代劇として監督する。撮影は生方敏夫、音楽は黛敏郎。市川海老蔵が舞台と同じ役で映画デビューし、菊五郎劇団の市川左団次、尾上海幸、尾上松緑、坂東彦三郎はじめ同劇団が総出演する他、淡島千景、草笛光子、瑳峨三智子、夏川静江、近樹十四郎等が出演。
慶応四年、敗れた旗本たちは榎本武揚の海軍によって天下を徳川の手に帰そうと志した。本田小六もその一人だった。彼は許婚である松平掃部の娘お登勢にそれとなく去り状を渡して江戸を去った。お登勢の従兄で小六とも友人の堂前大吉は、幕府軍の勇士だったが、今は柳橋で遊蕩三昧にふけり、芸者おりきとの仲を噂されていた。明治二年、幕府最後の抵抗も北海道に敗れた。五千石の旗本掃部も今では碁会所を開くわびしい暮らし。お登勢はおりきの世話で縫物をしながら家計を助けた。彼女の美貌に目をつけた総督府参謀吉田は、妾に出せと強談判したが掃部に拒絶される。吉田は手を廻して掃部を長屋から追い出す。不法な所業の多い吉田は、参与醍醐に放逐されたが、掃部は故郷の駿府へ帰る決心をする。出発の日、網徳の娘お蝶から小六らしい人を見たと聞き、掃部は大吉とおりきの夫婦に娘を預かってくれと頼む。おりきは今では踊りの師匠をしていた。二人はお登勢を預かって小六を探しあてた。小六はすっかり人間が変わって冷たく自棄になっていたが、お登勢が去り状を小六の前に差出し、声をひそめて泣き出すと、去り状を取り上げて静かに破りすてた。