1955(昭和30年)/3/22公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
山本有三の原作より池田忠雄が脚色、原研吉が監督した。撮影は森田俊保、音楽は加藤光男である。出演者は菊五郎劇団より坂東亀三郎、伊藤雄之助、山田五十鈴、菅佐原英一、須賀不二夫ほか、沢村貞子、小園蓉子、三好栄子など。
明治三十三年頃、山国に近い小さな町で、高等小学二年生の愛川吾一の家は、いなば屋という書店の裏にあった。父の庄吾は代々士族の家柄であった愛川家の土地が廃藩置県の煽りで町民達に分配となったのを怒り、訴訟の為東京に出ていた。母れんは封筒貼りの内職で、細々と生計を立てて勝ち目のない夫の帰りを待っていた。ある日、吾一は友達と意地の張り合いから危険を冒して鉄橋の枕木にぶら下った。それは、中学校へ行けない吾一の小さな反抗心の現れだった。受け持ちの次野先生と共に、成績のよい吾一の進学を願っていたいなば屋の主人の黒川安吉は、この事を知って学資の出資を申し出たが、折から帰郷した頑固者の庄吾に、にべなく断られた。吾一は、庄吾の借金の埋め合わせに、伊勢屋呉服店に小僧奉公に出され、同級の秋太郎や妹きぬに仕えねばならなかったが、小僧だというので名を五助と呼ばれる事が何よりも悲しかった。こうした中で、吾一は母の死に会い、悲しみの余り店を抜け出して次野先生や父のいる東京に出奔したが、父は仕事の為、九州へ去っていた。父のいた下宿で、女主人母子にこき使われながらも、吾一は下宿人の画学生黒田に励まされていたが、訴訟に庄吾の敗けた日、追い出されてしまった。