1956(昭和31年)/2/26公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
故岸田国士が昭和十四年に発表した小説を松山善三が脚色、小林正樹が監督、森田俊保が撮影を担当した。主な出演者は、有馬稲子、佐分利信、佐田啓二、中川弘子、桂木洋子、加東大介など。
浅間山麓の曽根部落は、水源地の問題で土地の人々と土建会社の間に争いが絶えない。講演会の途中、大沼博士に随行して実業家立花公房の別荘を訪ねた少壮植物学者幾島暁太郎は、立花の秘書斎木素子に思慕の情を寄せるが、素子の本心が掴めず悩んだ。まもなく妻と別居中の立花がとつぜん謎の自殺をとげ、素子は立花が投資している土建会社の社長田沢の秘書になった。二年間も幾島を慕いながら、打ち明けずにいる大里町子は友人の尽力で幾島に会うが、彼が素子を恋していると知って悲しくも諦めようとした。一方、素子から曽根部落の黒岩万五のような野性的な男が好きだといわれた幾島は、一切を清算して紀州の自然科学博物館に就職した。ある日、幾島は見学団の中に町子の姿を見出したが、町子は憤りをこめた眼で逃げ去るのだった。そのころ、素子は田沢の指図で立花別荘をホテルに改造するため、浅間山麓にあったが、水源地問題は、土建会社と小峰喬を先頭とする村の人々の対立に不穏な空気をはらんでいた。その渦中へ、紀州から町子を追って上京した幾島が、立花夫人の自殺を告げに現われた。素子は初めて、互に憎みきれなかった立花夫妻の愛情を知った。幾島が探し当てた新しい水源地が、黒岩の仕掛けたダイナマイトでひらかれた。歓声と共に水がしぶきを上げて噴き出た瞬間、黒岩は傷つき彼を慕う小峰の妹セツ子が駆け寄った。数日後、幾島は素子が採ってくれた“こもちしだ”を記念に山を降りて行くのだった。