1959(昭和34年)/1/3公開 78分
配給:松竹 製作:松竹株式会社
岸恵子のために木下恵介が書き下ろし監督した農村メロドラマ。撮影は楠田浩之、音楽は木下忠司。出演は岸恵子に加えて有馬稲子、久我美子。その他に笠智衆、川津祐介、井川邦子らの出演。
信濃川の流れが山々の間を通り抜けると信州善光寺平である。県道に添った名倉家で結婚式が行われ、花嫁のさくらが出発していった。見送っていた春子は息子の捨雄の姿が見えないのに気づいた。胸さわぎを覚え、川辺へ駈け出した。捨雄が水を蹴って深みに向かっているのを見つけ、彼女は夢中で追いすがった。十八年前、春子は十七歳で、小作人の娘だった。彼女が大地主の次男英雄と抱き合ったまま飛び込んだのもこの川なのだ。この許されぬ恋の決算は英雄が死に彼女だけが生き残ることになった。怒った英雄の父は骨壺を川に叩きつけ、春子の父は自殺した。一人ぼっちで身重の春子は村人から白眼視され、つらい日々を送った。外聞を気にした名倉家は、下僕弥吉の熱心な口利きで彼女を引き取り、子供を生ませた。子は捨雄と名づけられた。英雄の父夫婦は母子を迫害した。名倉家には、死んだ英雄の兄夫婦に、その一人娘で捨雄より七つ年上のさくらがいた。彼女だけが捨雄を可愛がり、いつか彼も淡い恋心を抱くようになっていた。その頃、さくらの結婚が決まった。彼も心から彼女を祝った。ある日女学校時代の親友乾幸子が訪ねて来た。彼女は学校を出るとすぐ東京へ出て行った。それをさくらはどんなに羨んだことだろう。彼女の帰った後さくらは今までの虚ろな生活を救っていたのは捨雄の清らかな愛情だったと改めて気づいたのだ。その記憶を胸に新しい人生へ出発しようと決意した。結婚前のある夜二人は家を抜け出て川辺で会った。純愛の記念に拾雄は舞扇を貰った。それを持って捨雄は深みへ進んでいく。