1980(昭和55年)/11/22公開 114分 カラー
配給:松竹 製作:松竹株式会社
郊外の団地で平穏に暮す親娘の三人家族の娘が、テタナス(破傷風菌)に取りつかれ、伝染の恐怖におののく家族を描いたストーリー。芥川賞作家、三木卓の同名の小説を映画化したもので脚本を井手雅人、監督を野村芳太郎、撮影を川又昂がそれぞれ担当している。
千葉郊外の団地に三好昭と妻の邦江、娘の昌子の三人家族は住んでいた。その付近には、まだ葦の繁みがあり、昌子は湿地の泥の中を、蝶を追って虫取り網をふりまわしていたが、すんでのところで珍しい蝶を取り逃がしてしまった。その晩昌子は、蝶がぐんぐん自分に迫り、目の中に飛び込んで来る夢を見た。「こわいよ」と叫ぶ昌子。かけつけてきた昭は、ぞっとする何かを感じ、身震いするのだった。数日後、母の邦江は昌子の小さな異常に気づいた。食事中、昌子は食物をポロポロこぼし、トイレに立った後姿は鵞鳥のような歩き方をしている。風邪かなと邦江は心配した。しかし、その直後、昌子は絶叫をあげて倒れた。白い歯の間に小さな赤い舌がはさまってもがいていた。救急車で病院へ運ばれる途中も、昌子の発作は続いた。舌を噛まないように差し込んだ昭の指はくい破られ、血が吹きだしていた。大学病院で、昌子は医師団に裸にされ、何時間も調べられた。「テタナスだ!」と叫ぶ医師たち。テタナスとは、幾億年も昔、まだ人類などいない頃、地球に存在した微生物だ。ほんの僅かな傷口から人間の体内に侵入し、二○グラムで日本を絶滅させるという。昌子は暗い病室の中でビニールの酸素テントをかぶされ、ベッドの枠に手足を縛りつけられている。昭、邦江、能勢の不眠の数日が続く。もうろうとする昭の頭に感染したのではという恐怖が生まれた。邦江も妄想に取りつかれた。今、三人の親娘は完全にテタナスのとりことなっていた。平和な家庭は、一転して、底知れぬ地獄の中に投げこまれてしまったのだ。
赤十字国際映画祭赤十字社同盟賞:ブルーリボン賞主演女優賞(十朱幸代):キネマ旬報賞主演男優賞(渡瀬恒彦)