2010(平成22年)/1/30公開 126分 カラー
配給:松竹株式会社 製作:「おとうと」製作委員会
『家族』、『幸福の黄色いハンカチ』、『息子』、『学校』シリーズ、そして『男はつらいよ』シリーズで、その時代、時代の日本の家族を描き続けてきた山田洋次監督。いつの時代も変わらない家族の絆を描く一方、社会が抱える問題にも鋭いまなざしを向けてきました。『十五才 学校Ⅳ』以来、10年ぶりの現代劇となる最新作『おとうと』でも「看取り」や「ターミナルケア」などの現代的な問題に触れています。本作は、東京で堅実に生きてきた姉と、大阪で何かと問題ばかりを起こしてきた弟との、再会と別れを優しく切々と謳いあげる、笑いと涙にあふれ家族に会いたくなる、人恋しくなる──『おとうと』は、そんな映画です。
東京の私鉄沿線、商店街の一角にある高野薬局。夫を早くに亡くした高野吟子(吉永小百合)は、女手ひとつで一人娘の小春(蒼井優)を育てながら、義母の絹代(加藤治子)との三人で暮らしている。小春とエリート医師との結婚が決まり、一家は幸せの頂点にあった。結婚式の前日、吟子は宛先人不明で戻ってきた招待状を受け取る。大阪で役者をしているはずの弟、鉄郎(笑福亭鶴瓶)だ。酒を飲んで大暴れした吟子の夫の十三回忌を最後に、音信不通になっていた。鉄郎が来ないと分かった絹代は「ああ良かった」と安堵の表情を浮かべるのだった。式の当日、吟子の兄の庄平(小林稔侍)は、「お世話になりました」と母に頭を下げる小春を見ただけで涙ぐむ始末。ところが、和やかに始まった披露宴に暗雲が──。羽織袴の鉄郎が、汗だくになって駆けつけたのだ。庄平に酒を飲むなと強く釘を刺されるが、我慢できたのは最初の数十分だけ。若者に交じって酒を一気飲み、頼まれてもいないスピーチでマイクを独占、ディナーショーさながらに会場を練り歩いて浪曲の披露、あげくはテーブルをひっくり返し......と大暴れ。新郎の両親にさんざん文句を言われた庄平は、鉄郎と縁を切ると宣言する。思えば、吟子はずっと鉄郎をかばってきた。鉄郎が学校でタバコを吸えば謝りに行き、万引きしては警察に引き取りにも行った。「いい年した弟のために謝りに行くの、うんざりよ」そう言いながらも、翌朝、大阪に帰る電車賃をそっと渡し・・・