1992(平成4年)/12/19公開 111分 カラー ビスタ 映倫番号:113848
配給:東映 製作:フジテレビジョン
監督・滝田洋二郎、原案&脚本・一色伸幸のコンビが「病院へ行こう」に次いで贈る第2弾。
ヒロイン祐子を小泉今日子が演じる。
同時上映「七人のおたく」
緩和ケア病棟(ホスピス):末期的症状の患者に病名と余命を告知し、心と身体の痛みを緩和する場所。患者に意味のない延命治療を施さず、モルヒネをうまく使って、患者の最後の日々を充実させることを目的とする。
安曇祐子は、最近面白いことが一つもない。周りの友達なんかは、結構うまくやっていて、自分は何故かその割をくっているような気すらもしている。「いつかは、私だってパーッと」なんて、気分晴らしの宴会でちょっと飲み過ぎたのが事の始まり。救急病院に運び込まれる。吐物の中に一条の血が混じっていたので、胃カメラ検査をした結果、末期症状のガンが発見され、祐子は緊急入院。もちろん本人には、ただの胃潰瘍と告げて。
この病院は、オーナーの長男一郎が実質的な経営者。患者がどんなにわずかであろうと、長いこと生きてもらいたいという真面目な医者。そのためにはと、薬・医療設備を常に最新のものにしている。
これに対し、次男の保はノーテンキの埋想主義。というのも、医者のくせに医療に全く自信がない。患者に接するのがコワイのだ。だから、半分言い訳、半分自己弁護でこう言う。「治らない患者を苦痛がないように、死なせるのも医者の仕事だ。」
これが、彼を熱烈なホスピス支持者にした。
真実の病名を知らされた祐子は、さすがにショックを隠せなかった。しかし、ホスピスに移ってから徐々に明るさを取り戻していく。
この病棟には5人の男女の患者がいる。1人を除いて、4人とも病名を告知されている。死に対する恐怖はないわけではない。しかし、「どうせ人間いつかは死ぬんだ」「みんなで死ねば怖くない」とお互い元気に励ましあっている。さしつかえない程度に酒盛りさえ始めるときもある。ヤケを起こしているワケではない。少なくとも抗癌剤の副作用からくる苦しみから、抜け出せただけで気分は自然と明るくなるのだ。ホスピスでは、高価な新薬はいっさい使わない。適量に処方されたモルヒネだけだ。これで、患者は最大の恐肺『痛み』から解放されている。しかし、理想を追及するばかりのホスピス経営は、なかなか軌道にのらない。一郎は立場もあって不機嫌に、保はホスピスを守ろうとあがいている。祐子は、保のような自分の理想をはっきりと持った男に初めて出会って感動した。今までの自分がちょっと恥ずかしく、後悔もこみ上げてきた。
もし、このまま生きていられたら、後50年は生きられた。でも、自分にはもうそんなに時間がない。だったら、その分のシアワセや楽しみを今、感じておこう。祐子は、初めて自分のやりたい事が分かった・・・。ホスピスをこっそり抜け出した祐子は、ふとしたキッカケで生命保険のCMに出演する。『今年のクリスマス・ツリーは見られません。私は入っていませんでした。』このCMで、祐子は有名に。ガンのせいで、自分からつきあっていた男性と別れたという嘘の記事も女性誌に発表、反響を呼んだ。
TV・雑誌・新聞紙は、毎日のように数ヶ月後に死を控えた祐子の話題を取り上げた。
「人間は必ず死にます。告知を受けた末期患者は、すこし特別かもしれません。でもみんな死ぬまでは生きている、ふつうなんです、欲も恋も元気です。」
祐子は、短い間だったが自分なりに充実した日々が送れたと思っている。ホスピスでの生活に感謝していた。以前のように抗癌剤漬けの毎日だったら、後何ヶ月かは生きられるかもしれないが、こんな楽しい気分にはなれなかっただろう。今夜はいつになく、だるい。祐子は寝つかれないまま、身体をベッドに横たえた。
クリスマスイブの夜―空に返すような小さな息を吐いて、安曇祐子は死んだ。ホスピスには、祐子が命を張って稼いだ1億にもなる契約書が残された。このホスピスは、病院内で一番の黒字病棟になっていた。
『ホスピスのために役立てて下さい』一枚の紙片に、祐子のやさしい字が語りかけるように書かれていた。