1993(平成5年)/10/9公開 115分 カラー ビスタ 映倫番号:114041
配給:東映 製作:西友 / 東映 / 東北新社
愛する者に死が訪れる時、男は二人の想いを“現在”に託した…。
直木賞作家・伊集院静の自伝的小説を映画化。及川麻衣の自然体の演技も光る愛のドラマ。
同時上映「クレープ」
立原憲一は、妻の里子の笑顔を久しぶりに見た。
半年近くの入院生活に退屈した里子を憲一の仕事仲間である栗崎三郎が見舞いに訪れたのだ。里子を喜ばせようと、おどけて見せる三郎の心遣いが憲一には嬉しかった。甲斐甲斐しく里子の世話をする憲一。それは、今までの憲一からは想像もつかない姿であった。
三年前。憲一が演出する歌手のコンサートスタッフに里子がいた。初めての仕事で気負ってしまう里子を憲一は励ます。里子はそんな憲一に魅かれた。しかし、憲一は仕事を離れると、ギャンブルと酒と女に身を任せる不良中年であった。根無し草のような憲一の生活に興味を示した里子は、彼に付きまとう。初めは戸惑いを示していた憲一も、酔いに任せて里子と一夜を過ごしてしまう。
それから二人の関係は始まった。憲一の悪癖は相変わらずだが、里子にはそれを当たり前のことのように受け流してしまう無邪気さがあった。いつのまにか憲一は里子との生活を心地良く思うようになっていた。
ある日、里子は憲一に子供を堕ろしたことを告げる。子供の産めない身体になってしまった里子は「私があなたの子供になる」と言った。それは里子の精一杯の強がりで、憲一へのプロポーズだった。しかし、里子はこの頃から白血病に冒されていた。
病院の屋上を散歩する憲一と里子。里子はパジャマを開いて自分の乳房を見つめて、「…ちいちゃくなったな」と眩いた。
里子は、自分の病状に気づいているのであろう、と憲一は思った。今更、善人になったところで何もしてやれない自分に嫌気がさした憲一は、三郎と夜の歓楽街に繰り出す。酒を呷り、その夜を明かす相手を求める憲一。しかし、騒げば、騒ぐほど虚しさが募るばかりだった。深夜、憲一は里子の待つ病室に戻った。月光の射し込む室内には、憲一を優しく見つめる里子の眼差しがあった。
里子の裸身に浮いた汗を拭ってやる憲一。里子が、憲一の手を自分の胸に運ぶ。まるで、その小さな胸の中に、二人の想いを封じ込めるかのように…
永遠のような静寂が、二人を優しく包んでいた。