1960(昭和35年)/4/5公開 83分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:11615
配給:東映 製作:東映
集金のお金を貸してしまった穴埋めに銀行帰りの女を襲ってしまった貧しい若者と、その犯罪の目撃者である美しい娘。犯罪の中に芽ばえた二人の純愛を描いた青春野心作。
とある裏通りで銀行帰りの女から風呂敷包みを奪った男は、町のメッキエ場に臨時工として働く高橋恵一。父親のいない彼の家庭は年老いた母親さとと化粧品会社に勤める妹のテル子、それに小学校六年になる弟の次夫の四人暮し。惠一はこの一家を支え真面目に働いていたが、三日前、恵一の幼い頃の恋人だったあさえの恋人・三村に出会い、あさえが病の床に伏していることを聞いて、集金したばかりの六千円を貸してしまったのだ。しかし貧しい臨時工の惠一に六千円の穴埋めは容易ではなく万策尽きた恵一は、遂に思い余って銀行帰りの女を襲ってしまったのである。
路地から路地を夢中で逃げる恵一の眼前に一人の美しい娘が丁度マリを拾い上げて立っていた。一瞬二人の眼が絡み合ったが、恵一はそのまま身をひるがえして逃走してしまった。
恵一が奪った金は二十八万円という大金だった。
「なんて事をしてしまったのだ」恵一の心にあらためて罪の意識が襲ってきた。五千円を集金の穴埋めにあて、ホッと一息ついたのも束の間、公金を流用した事が知れて恵一は会社を追われてしまう。奪った金を使う気はない惠一は、残された家族の為にも、何とか職を得ようと焦った。そんなある日、恵一は幼児を連れた美しい保母を見て息を呑んだ。あの犯行の日に出会った娘ではないか。
「この娘は俺の犯行を知っている!」言い知れぬ不安が恵一の胸に覆い被ってきた。彼女が若葉保育園の保母・紺谷みや子であると知った恵一は、彼女を待ち伏せた。運河沿いの路上でもつれるように争う二人。「どうか警察には言わないでくれ」逆上の余り、一時は殺意さえ抱いた恵一は必死に哀願した。そんな恵一の素直な一面に惹かれたみや子は自首を勧めた。そしてその日まで、あの事件の事は二人だけの秘密にしておくことを約束するのだった。しかし貧しい家庭や、幼ない弟たちのことを思えば自首は出来ず、恵一は日雇いとして懸命に働いた。奪った大金には手をふれようともせずに働く恵一の純な心を知ったみや子は、自分の貯金五千円をおろして、元通りの二十八万円とし、それを被害者の中田順子に直接手渡す事を提案した。惠一は震える手で中田順子へのダイヤルを廻すが、かえって「被害者を電話でからかう犯人」として新聞の三面記事を賑わしただけだった。何とかして自分たちの真情を被害者に知って貰おうと焦った二人は、直接中田順子の家を訪ねた。だが二人の努力にも関らず、逆に恵一は辱しめを受ける始末。ニ度の失敗に恵一の心は苦しむばかりだが、そんな恵一をみや子は優しく励ますのだった。二人の間にはいつしか清純な愛情が芽生えていった。
ある日恵一は、飲み屋で酔っぱらっている三村をなだめているあさえに会った。あさえの病気とは、恵一から金を借り出す為の三村の方便に過ぎなかったのだ。
やがて恵一の就職が決まり、みや子と喜びを分かち合ったのも束の間、新聞があの事件の容疑者として十八才の少年を逮捕した事を告げていた。「俺のために無実の者が捕まった」恵一の心は烈しく動揺した。
溶鉱炉の火が夜空を赤く染めている夜、恵一はみや子に会い、自首する決意を告げる。その胸に顔を埋めるみや子の瞳には涙が溢れていた。自首の前にもう一度、中田順子に会い、心から許しを求めて金を手渡す惠一を順子は恐怖の表情で迎えた。「強盗!」思わず口走った順子の叫びに人々が恵一に殺到する。街路樹の陰で、じっと恵一の無事を祈るみや子。その眼に手錠をはめられた恵一の姿が映った。身じろぎもせず立ち尽くすみや子の胸にはぶつけようのない怒りと悲しみが沸々とたぎるのだった。