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神田祭り喧嘩笠 

The Kanda Festival Brawl

1960(昭和35年)/8/31公開 83分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:11943 
配給:東映 製作:東映

里見浩太朗が華やかな神田祭りを背景に、腕と意気地で大暴れする痛快任侠篇。真山青果の原作「荒川の佐吉」から、愛し愛されながらも二途の道を歩まねばならぬ切ないやくざの恋や盲目の児を絆に結ばれる激しい愛の交錯、そして奪われた繩張りを取り返し単身良く親分の仇を討つ佐吉の活躍をベテラン・マキノ雅弘監督が描いた興趣篇。

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ストーリー

江戸は神田一帯に繩張りを持つ大親分・鍾馗の仁兵衛は情に厚く、乾分たちの大望を一心に集めていた。三下奴の佐吉もその一人。弱肉強食のやくざの世界で何とか男一匹売り出そうと実直にその務めを果していた。そんなある日、佐吉の親友で大工の辰五郎が息せき切って鍾馗一家にとび込んできた。甲府に残した佐吉のたった一人の弟が、悪性のはしかにかかり、明日をも危いとの話しに、仁兵衛は佐吉を直ちに甲府へ発たせた。「やくざ稼業は強い者が勝って弱い者が負ける。勝ち負けのハッキリした世界だ」やくざ稼業をとがめる辰五郎にキッパリ云い切った佐吉の言葉に、ウッソリと冷い笑みを湛えた不気味な浪人の姿が何故か佐吉には忘れることが出来なかった。
それから十ヶ月後、思いがけない病に倒れた佐吉がやっと江戸に戻った時、神田一帯の様子はガラリと変っていた。あれ程の勢力を誇っていた鍾馗一家は影を潜め、とって代って成川一家が一帯を恐怖のどん底に落とし入れていた。成川一家の親分とは、冷い笑みを残して消えたあの浪人者である。あの日、浪人暮しを捨てて一旗上げようと江戸の町に入ったとたんに耳にしたのがあの佐吉の言葉。その翌日、神田祭りの騒ぎを幸に仁兵衞に大傷を負わせ、隅田の清五郎を叩き斬ると鍾馗一家を乗っ取ってしまったのだ。
今は成川一家の身内として肩で風切る昔の仲間をよそに、佐吉はお八重とともに汚い長屋に住み病の身を養っていた仁兵衛のもとに身を寄せた。
その頃、お八重の姉・お新は、豪商丸総の養子・総吉のもとに嫁ぎ一子・卯之吉をもうけたが、これが生れついての盲で、家柄を重んずる主の総右衛門は大金をつけて卯之吉を仁兵衞に引き取らせた。お八重は激しく怒り、「落ちぶれたとはいえ鍾馗の仁兵衛ともあろうものが金に目がくらむとは…」と長脇差片手に立上った仁兵衞が、止める佐吉の手をふり払い単身成川一家に殴り込みをかけて老の命を成川の刃の下に散らしてしまった。全身を斬り裂かれた仁兵衛の悲しい姿に、佐吉の血はフツフツと燃えたぎった。「お待ち、お前がいくら力んだってかなう相手じゃない」何時の間にか秘かに愛し始めたお八重の言葉をふり切るように成川一家に躍り込んではみたものの多勢に無勢、さんざん痛めつけられた上、簀巻きにされて川に投げ込まれてしまった。
それを救ったのが夢想流棒指南・夢想十兵衛と妹の千絵である。とも知らず父親と頼りに思う佐吉を失った八重は、盲の卯之吉を養うため鶴の屋から芸者に出た。成川は毎夜のように八重を酒席に呼び出して何とか我が物にしようとそのチャンスを狙う。
ある日、傷癒えた佐吉が、八重に一目会いたさで鶴の屋にやってきたところをばったりと成川の一行に出会ってしまった。成川の全身から流れ出る不気味な殺気に一早く気付いた八重は、心を鬼にして佐吉を罵ると巧みに成川を連れ出してしまった。八重の心の中も察することのできない一本気の佐吉には、唯々八重に対する激しい怒りだけが残った。
その日以来卯之吉を手許に引き取り、辰五郎の許に身を寄せに佐吉は、飴売りで細々と生活をたてる一方、十兵衛の道場に通い日夜夢想流の棒術を極めようと懸命の努力を続けていた。くたくたに疲れ果てた佐吉に、母親の乳房を恋しがって泣き続ける卯之吉…。夜通し卯之吉を背負って夜の町を歩き続けた佐吉は、幾度丸総の店の前で男泣きに泣いた事であろう。八重は辰五郎に云い含め、日々の暮しの足しにとお金を送り続けていた。
四度、神田祭が近づいたある日、晴れて丸総の主となった総吉とお新が卯之吉を引き取りにやってきた。「いまさら卑怯じゃないか。大体お前さん方は…お前さん方はどこまで佐吉をいじめたら気が済むんだ!」涙ぐみながら叫ぶ八重に、凍りついた佐吉の心に昔の想いがよみがえった。
盲の卯之吉に朗報が訪れた。加賀藩の御典医・村井道伯が卯之吉の目を治してくれるという。唯々その価が大枚百両…。悲しみに閉ざされた佐吉の姿に八重の心は決った。憎い成川、だが佐吉と卯之吉の二人が幸せになれれば…。八重は神田祭の終った後でとの約束で成川から百両の大金を借り受けた。
いよいよ神田祭がやってきた。八重の決意のおかげで日本一の名医といわれる村井道伯が卯之吉の目にメスを入れた。その傍で固唾をのむ佐吉。そこへ千絵がかけ込んできた。
「大変です。お八重さまが成川のところに…」
「エエッ。さてはこの百両は…」
云いも終らず夢想流極意の棒を小脇に、佐吉は鶴の屋目指してすっとんだ。
丁度その頃、短刀片手に八重が成川に突きかかっていた。可愛さ余って憎さ百倍…成川の大刀が八重の頭上に閃めいた一瞬、佐吉が八重をかばって立ちはだかった。十兵衞心づくしの金棒の秘術がある時は槍に刀に薙刀にと縦横の変化を見せて成川を襲う。
「討とうと思うな、相討ちの覚悟、よいな」との十兵衞の言葉に、捨身の佐吉の金棒が遂に成川の息の根を止めた。
それから数日、廻し合羽に三度笠の佐吉が旅に出る。その側には旅姿の八重が恥ずかしそうに寄り添っている。
見送る十兵衞、千絵、辰五郎、それにパッチリと目のあいた卯之吉が父母に手をひかれあどけなく笑っている。幸福そうに身を寄せ合う二人の姿は次第に遠く夕靄の中に消えて行った。

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