1960(昭和35年)/11/22公開 96分 カラー シネマスコープ 映倫番号:12077
配給:東映 製作:東映
強きをくじき、弱きを助ける森の石松を中村錦之助が熱演。時代劇と現代劇をミックスした奇想天外のヌーベルバーグと絶賛された痛快娯楽作。
石井君は新進演出家だが、ヌーベルバーグとハンバーグの区別のつかぬ劇場支配人や猿芝居よろしきを得た大根役者相手では残念ながら実力は発揮されていない。今日も今日とて「森の石松」の舞台稽古で意のままにならぬ役者共に業を煮やした彼は、助手の岡田ふみ子に当り散らした。しかし「触らぬ神に祟りなし」とふみ子は全然相手にしない。益々焦立った彼は「バカヤロー出ていけ!」と一喝。ふみ子女史を追っ払うとあおるように酒を飲み、他愛もなく寝込んでしまった。
ここ富士も美しい清水港の浜辺。「石さん!石さん!」叫び声にむっくり起き上がった一人のやくざ――片目のつぶれた森の石松である。だがこの石松「俺は役者じゃない。進出演出家の石井だぞッ!」と頭のマゲをむしりとろうとする有様。果ては、次郎長親分をつかまえて「電気屋の長サン」親分の女房、お蝶を「劇場掃除の小母サン」と呼ぶ奇行続出ですっかり気狂い扱いされ、遂には座敷牢に入れられてしまった。ここで彼は考えた「俺はどうしたはずみか昔の世界に飛び込んでしまった。そのうちどうにかなるだろう」と。そしてとってつけたように威勢のいい啖呵を飛ばし、一時はどうなる事かと心配した二十八衆をホッとさせた。やや日がたって、奇行もおさまった石松は次郎長に金毘羅代参を命ぜられた。「こりゃいけねェや。この旅にゆきゃ死ぬ事になっているんだよ、俺は」と悄気たものの「わたしが一緒に行けば大丈夫よ」と許婚である飲屋のおふみちゃんに励まされる。美しいおふみと一緒、しかも筋書と違う旅となれば楽しいもの。気も晴々と思いきり羽をのばし、せっかちな癖も飛び出して「やっぱり私の石さん」とおふみを喜ばす。
大きな風呂敷包みを中にして、取っ組みあっている二人の男、須走りの多蔵と伝法の佐吉。そこは義侠心篤い石兄い。弱い方に味方をしたのが悪かった。「親分、恩に着ます」と馬鹿でかい包みをかつぐ佐吉と同行する羽目になる。この男、寝るときにも包みを抱いて離さない。「何が入っているんだい」といぶかしがった石松が、ある朝、藻抜けの佐吉の床に鎮座ましましている包みをあけて驚いた、千両箱ではないか。石松、捨てるわけにいかず、佐吉に会ったら叩き返してやると、かついで旅を続ける。「とんだ荷物を背負い込んだわね」と気の毒そうにおふみちゃん。「助けてくれーッ!」十名ほどのヤクザに追われる旅の男、嘉助。先頭に立つ黒龍屋の子分・兼吉は長脇差一閃斬りつけた「うわあーッ」とのけぞる嘉助。「畜生ッ」そこはそれ、義侠心!千両箱を背負ってふらふらしながらも、盲滅法暴れまわる石松の長脇差。ヤクザ共を追い払うと嘉助を助け起こしたが、すでに虫の息。「…倅を頼む…芳太郎を…」とガックリ。思わずホロリとした石松だが、「アレッ荷物がふえたアー」とこれまたガックリ。親父の死を知らぬ芳太郎は無邪気なもの。「大事にしてね」と石松にくっついて離れない。寝るときも同じ蒲団に潜り込んでくるのはいいがたまらないのは寝小便。芳太郎坊やを肩に、千両箱包みを背に、石松ゲッソリした顔つきで旅をつづける。「元気を出しなよ、小父さん。オイラがついてるぜ」と肩の上でいい気なもの。三十石船の中、ぐっすり寝込んでいる舟客たち。石松にそっとより添うおふみをみて、芳太郎曰く、「ああ、うるわしき哉!」金毘羅代参も無事すませ「これで真ッ直ぐ清水に帰れれば…」と勇んだ矢先、小松村の七五郎さんの家に寄ると筋書き通りよ」と心配するおふみだが、疲れ果てた芳太郎の姿に哀れを感じ、七五郎の家に草鞋を脱ぐ事となった。だがこの家の貧乏は一通りのものではない。石松一行をもてなさんと、七五郎お民の夫婦は一張羅を脱ぎ、裸になって酒代を得る始末。その夜、旅の疲れからか芳太郎が熱を出してしまった。「よし医者だ」と飛び出さんとする石松、「医者の家は閻魔堂を通り抜けてすぐ…」といわれ、一瞬ためらうが「子供の命にかえられぬ」と一目散にかけ出した。不安に胸をときめかすおふみ。さて石松は、医者を呼び出して閻魔堂を通り抜けようとした時、都鳥一家に襲われた。「畜生ッ、とうとう出やがった」と長脇差かざして暴れまわったが、残念ながら多勢に無勢。次第次第に斬りつけられ、兼吉を倒し、都鳥吉兵衛を刺し殺した時には、深手を負った石松は立っているのがやっとだった。駆けつけてきて「石さーんッ!」と必死に叫ぶおふみ。「おふみ…筋書き通りになったぜ…」と息も絶え絶えの石松――。「先生ッ、先生―ッ!」と呼ぶ岡田女史の声にガバッとはね起きた石井君。「出来た!おふみちゃんできたぞッ!」有頂天になって喜ぶ態に、岡田女史は茫然と見つめるだけ。まずは目出度いヌーベルバーグ「森の石松」の誕生である。