1960(昭和35年)/11/23公開 55分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:11899,11900
配給:東映 製作:東映
伏見扇太郎が熱血の快剣士・高島俊太郎に扮し、前髪スタイルで大活躍を披露する新風時代劇。奇怪な死人詰の棋譜が予告する、人を呪い世を呪う殺人鬼・紅葵の恐るべき復讐計画に敢然と挑戦する俊太郎の活躍を、燃え上がる愛と憎しみの交錯のなかに描く怪奇戦慄篇。
どくろ篇
時は徳川十代将軍家治の治世、江戸の町に奇怪な殺人事件が相次いで起った。殺されたのは質商・伊勢屋のおぎんと水茶屋の女将おふみで、死体には王将側の駒ばかりで詰手の駒は一枚もない不可解な将棋の棋譜が手裏剣で突き刺してあったという謎のような連続殺人事件である。さらに事件の探索を続けていた御用聞き・提灯屋柳造の無残な死体からも謎の棋譜が発見された。幕府将棋所司・伊藤宗印は、将軍家秘蔵の将棋詰物集「象戯欣格」を調べてこの棋譜が死人詰という謎の手詰まりだと知り、死人詰めと太閤駒献上事件を関連させて、当時の文献を柳造の日誌に求めるのだが、こともあろうに続発した死人詰め殺人事件で柳造の娘・お敬殺しの巻き添えを食って捕われの身になる。太閤駒献上事件というのは、十六年前、武州柏木村に於ける将軍家治お鷹狩の折、二十四年前に行方不明となっていた将軍家秘蔵の太閤秀吉の筆になる王将駒の献上を申し出た北村左源太という兎口の男が何者かに毒を盛られ急死したという事件である。そして、不思議なことに、左源太に伴われていた八歳ぐらいの男の子も、問題の王将駒と共にそのまま行方不明になったという。死人詰めの謎を将棋用語で、四二銀は四十二才のおぎん、三八歩は三十八歳のおふみと解読して、これを殺人の予告と看破していた蘭学者・平賀源内の門下生・高島俊太郎は、伯父の町奉行・曲淵甲斐守の依頼を受け、恋人・お千代の父・宗印の無実を晴らさんと事件の解明に乗り出した。こんな俊太郎に、不気味な紅葵の紋を染め抜いた白仮面の怪人物の妖刀とその一味か、将棋大名・都築権三郎と弟・陣之助たちの執拗な魔手が謎をはらんで激しくのしかかるのだった。俊太郎は、老中・沼田佐渡守の養女となり将軍世嗣家基のお側御用に上がる西丸御殿医・小暮道庵の娘・お京の駕籠を襲わんとする同僚の下村松之丞を制止しようとして揉み合ったことから、松之丞の懐に柳造の日誌を見つける。お京への恋に狂って傷つき、幸せそうな俊太郎とお千代の姿をやっかみ、この仲を裂こうとお敬の愛情を利用して手に入れた日誌に病的な関心を示す松之丞である。かくして、死人詰殺人事件の謎は日誌を巡る俊太郎と松之丞の懐中から俊太郎の烈刃に斬り裂かれて、川面へ飛び散る。そして一つはお千代の手に帰したものの、影のように出現した紅葵一味にお千代ともども何処かへ運び去られ、今一つは老中・沼田佐渡守の腹臣・黒兵衛に奪われ、いずれかへ持ち去られる。月の光に荒涼たる風景が青白く照らしだされている逢魔ヶ原に千代を助けんと駆けつけた俊太郎を待ち受けていたのは、千代をおとりにして俊太郎を亡きものにせんとする紅葵一味の卑怯な罠であった。
まぼろし篇
逢魔ヶ原に待ち構えていた紅葵一味の卑怯な罠から俊太郎を救ったのは、折りよくなだれ込んで来た町方の捕手群であった。しかし、この御用提灯の海は、なんとお千代の懐にある残り半分の日誌を狙う黒兵衛の奇計であった。若さに物を云わせて新たな敵を相手に俊太郎の大活躍が展開した。俊太郎の活躍で手に入れた後半分の日誌に明記されている柏木村願念寺というくだりを唯一の頼りに太閤駒献上事件の真相を求めて江戸を後にする俊太郎と源内。道中に於ける紅葵一味の執拗な襲撃を源内自慢のクヅヤミ玉でかわしてたどりついた願念寺に二人を待っていたのは、死人詰が予告した五四の角、五十四才の角善和尚の変わり果てた姿であった。しかし、俊太郎と源内の柏木村行きによって角善が元大奥勤めの茶坊主ということが明らかにされ、死人詰殺人事件の背後に大奥との関係が脚光を浴びるという意外な収穫をもたらす。父の無実を晴らすために、太閤駒献上事件当時の大奥の秘書を探らんと、甲斐守の書状を胸に老中・松島をたずねるお千代。太閤駒献上事件の真相というのは、将軍家治が自分の胤を宿した中﨟お国に後日の証拠にと太閤駒の大将を与えたことに端を発した将軍の寵愛をめぐる女の執念と欲がからんだ大奥内の勢力争いで、お国は、奸智にたけた家基の生母お幸の方のために、胎内の子は当時、庭師だった提灯屋柳造との間に出来た不義の胤であると中傷されて失脚し、遂には自ら命を絶ってしまったのだ。そして太閤駒献上を申し出た左源太と八才ぐらいの子供というのが、お国の兄と家治の落胤であったのだ。殺された人々が、いずれもお国失脚の策謀に加担したお幸の方縁の連中であったことが明らかになり、ここに全貌を見せた死人詰殺人事件の真相というのは、将軍の子として生まれながら、その暗い宿命故に世を呪い、将軍に復讐を誓う紅葵と名乗るお国の遺児の恐るべき復讐であったのだ。やがて紅葵の魔手は六三の金、老中佐渡守を血祭りにあげると、一九の香、家基側室お京の方、そして更に二四の王、将軍世継家基へと延びていった。
そんなある日、駒場野のお鷹場で鷹狩を楽しむ家基の一行が崖の峡に入ったと見るや、仕掛けられた大木が倒れて道を塞ぎ、忽然と現れた紅葵が「母の呪い、伯父の呪いの血潮で染めた紅葵、怨みの刃を受けて見よ!」と仮面をかなぐり捨てれば、その下に松之丞の顔があった。将棋大名と一味の乱波たちも家基目がけて殺到する。だがその時、危急を知って駆けつけたのは俊太郎とお京たちだった。松之丞を愛するお京から、松之丞の復讐心を利用して天下覆減を計る将棋大名の陰謀を聞かされた俊太郎の怒りの正剣が唸り飛ぶ…。