1960(昭和35年)/12/14公開 82分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:12066
配給:東映 製作:東映
好評を博した「片手無念流」に続き、剣豪スター近衛十四郎が、無頼の殺し屋浪人・一角に扮して血も凍る壮絶狂剣の舞を見せる異色時代劇巨編。
一升徳利を片手に大利根の流れに身をまかせる虚無の浪人・辺見一角は、瓢然と仁田村の鷹取長造の家に現れた。昨夜、とある居酒屋で長造一家の新吉と船戸一家の国造らとの喧嘩を買った一角が新吉を追って来たものだが、これが縁となって一角は長造一家の用心棒となった。剣に憑かれた一角は、長造の頼みで、まず船戸一家さらに亀崎一家と次々と附近の賭場を血祭りに上げ、どす黒い血に染まって酒と小判に明け暮れて行った。
ある日、久しぶりに長造一家に入る機縁となった居酒屋ののれんを分けたが、女主人の勝気で可憐なお俊に着物に付いた血をとがめられ、屑が屑を斬るんだと淋しく笑う一角だった。その時、お俊の許婚者の風間の源次が酔った勢いで一角にからんだが、必死に止めるお俊に一角は刀の柄に手をかけたまま静かに微笑を送って去った。
ところが明くる日、長造がこの源次の殺しを一角に頼んで来た。金で雇われる殺し屋稼業。長造を伴った一角は、月光に白く流れる大利根河原で源次と対した。だが、一角は何故か刀を取らず、突然、長造と源次を対決させたのだ。お俊を思う一角のせめてもの計らいだったが、一家の思惑に反して源氏は長造に斬られた。人斬り一角にも人の心はあった。お俊の悲しみを思って一角は浴びるように酒をあおったが、卑屈な長造は大利根河原での源次との一件を忘れたかの様に再び一角に殺しを頼んだ。だが、今度の相手はやくざではなかった。百姓に学を教え、博奕を止めさせようと必死に努力をしている大牟田双学だった。しかし、金の前にはやくざも学者もなかった。双学の塾に乗り込んだ一角は、血に狂った大刀を大上段に構えたが、一角を無視し刀を無視して歩み去る双学をどうしても斬れなかった。
一方、源次との一件から一角が長造一家と縁が切れたと思い込んだ鳴神一家が長造一家に殴り込みをかけて来たが、一角の魔剣の前にひとたまりもなく斬り崩されてしまった。だが、返り血を浴び、黒い血に染まった人斬り一角には、まだ斬らねばならない相手が残っていた。――双学だ。一角は、耕作地に双学を見つけて脱兎の勢いで襲いかかったが、双学の毅然たる態度と双学のために命を張ってくる百姓たちの気迫に押されてまたも斬ることが出来なかった。しかし、この時から、一角の心に僅かに残った人の心に灯がともされ、人斬り一角も次第に善意に目ざめて行くのだった。一角は双学と友情で結ばれ、お俊と愛で結ばれた。ある日、一角とお俊を家に訪ねた双学は帰途、長造が送り込んだ二人の刺客に襲われたが、飛び込んだ一角に危ういところを救われる。だが、長造とグルになっている新任の代官・松永主膳は、これを機に双学を消さんとお俊をさらって双学が刺客の二人を斬ったとの偽りの供述書に署名させ、数百の捕手を送って一斉に塾を襲った。
一方、お俊から事情を聞いた一角は、烈火の如く怒り、危機に瀕した双学の塾に飛び込みざま、金では買えない信念の剣をふるって双学を救い、血路を河原に開いたが、卑劣な主膳の短銃に倒される。だが一角は、大利根の河原を紅に染めながらも刀を杖に立ち上がり、“双学は渡さん”と絶叫しながら主膳を倒すとさらに長造を斬った。剣に憑かれ、世をすね、流血の息吹に生きた殺し屋浪人一角は愛するお俊に抱かれ、暖かい友情に包まれながら静かに息をひきとって行った。
「遊侠の剣客」シリーズ(2)