1961(昭和36年)/2/19公開 88分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:12158
配給:東映 製作:東映
謎はらむ阿波、剣潜む阿波。波瀾の部隊は鳴門の渦潮を超えて、陰密地獄へと移る。悲願込めた虚無僧剣法はひょうひょうと鳴り渡り、吉川文学の完全映画化なる。
国入りを急ぐ阿波守の行列に影の形に添う如く続く人達。それは弦之丞とお綱、千絵を中に周馬と孫兵衛の不思議なとり合せの三人だ。大津の宿で、千絵の姿を見たお綱は、なぜか弦之丞に知らせなかった。何時しか弦之丞に激しい思慕を寄せるお綱の切ない女ごころだ。周馬の執拗な挑みを、千絵は必死に拒み続けていた。これも弦之丞に寄せる激しい恋心が支えであった。しかし、欲情の鬼と化した周馬の腕力に屈しようとした時、彼女を救ったのは弦之丞だった。大阪船着場に立てられた入国禁止の高札を見て、弦之丞は千絵に別れ、単身小舟で鳴門の海を渡る決意をしたが、それも無為に終った。かつて世阿弥の阿波入国に手を貸した廻船問屋四国屋の女主人お久良に頼み、お綱と共に、御用船に乗り込んだ弦之丞は、情婦お米と仲間宅助を密航させようとした、啓之助の裏をかき、身替りに二人を殺させ無事出航したが、途中孫兵衛に発見され、荒狂う鳴門の渦潮に身を躍らせた。阿波の峻瞼剣士、原士(はらし)と呼ばれる異装の剣士たちの厳重な監視の中に、世阿弥と桑田左近の二人が、山牢に閉じ込められていた。憔悴した身に鞭打ち、獣骨に血をひたし、秘帖をつづる世阿弥の許へ疾風のように飛び込んできた男、それは、渦潮に消えた弦之丞だった。弦之丞の救援も、世阿弥暗殺を急ぐ竹屋三位卿の手に拒まれ、世阿弥は周馬に斬られ、秘帖は周馬から孫兵衛の手に移った。原士の長(おさ)竜耳軒は、弦之丞に阿波藩の苦境を語り、秘帖の引渡しを請った。日光東照宮改修費十万両を阿波藩に課した幕府の大藩取り潰しに動揺する阿波守を利用した竹屋三位卿の倒幕の企みを憂う竜耳軒であった。意を決した竜耳軒は据腹を切り、阿波守に直諫し、阿波守もその誠意にうたれ倒幕の志を捨てた。事を急いだ三位卿は、弦之丞に迫った。孫兵衛は、三位卿を斬ったが、弦之丞の烈剣に倒された。切りさかれた十夜頭巾から現れた孫兵衛の顔には、惨たらしい×印の烙印があった。かつて倒幕に志した原士の同志を裏切りの報いとして父竜耳軒がつけた烙印だった。死を賭した竜耳軒の忠誠に報い、秘帖を孫兵衛の手に握らせる弦之丞だった。人の世のはかなさを知り、千絵、お綱らと別れ行く弦之丞の吹く尺八の音が、嫋々と、心の内に染みわたるかの如く流れて行く……。
「鳴門秘帖」シリーズ(4)