1947(昭和22年)/3/18公開 86分
配給:松竹 製作:松竹株式会社
木下恵介監督作品。脚色は新藤兼人、撮影は楠田浩之が担当。主演田中絹代。
松川文江と菅原積は相思相愛の間柄だったが、二人の結婚はなかなか実現できなかった。文江の父はある会社に三十年も実直に勤めてきたが終戦とともに失業したきりで、以来一家の経済は文江と妹君子の乏しい収入によって支えられていた。一人の弟が大学へ通っているのも苦しい負担だった。こうした事情が文江と積の結婚を阻んでいた。彼女の結婚は今の文江一家にとって経済上の破綻に等しかった。娘の苦しい立場を知る父は八方就職に奔走し、母も妹も弟も姉の結婚を一日も早く実現させようと心をつかっていた。しかし周囲の人たちの暖かい心づかいにも拘らず、二人の結婚のゆく手には依然として現実の重い扉が立ちふさがっていた。積にも文江一家を養うだけの力はなかった。ある日、父は昔の下役島本に会い、いま料理屋をやっていて景気のいい島本から料理屋の勘定係で働いてはどうかと勧められた。娘の結婚を願う父ではあったが、一徹な気性として島本のような生活は到底耐えられず、その決心も鈍るのだった。ちょうどその頃積の姉藤枝が上京してきて、老さき短い母親の唯一の楽しみは積の嫁の顔を見ることだけだという。それを知った文江は苦しんだ。自分の結婚をめぐって皆が苦しんでいることを思い、この際自分が身を退くより他に無いと決心する。