1949(昭和24年)/10/8公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
製作は小倉武志で新藤兼人の脚本から吉村公三郎が監督する。撮影は生方敏夫が担当する。主演は田中絹代と井川邦子で、それに滝沢修、若原雅夫、坪内美子、東山千栄子、佐田啓二らの他千田是也、東野英治郎、青山杉作らが出演する。
ここ麹町高台の焼け跡古びた洋館の広間へ、そそくさと中年の男たちが集まって来た。この家の主人公、雨宮鶴代の危篤の知らせに、しぶしぶやって来た縁者たちである。この家に三十年勤めたという女中ユキの話で、鶴代は二日も眠り続け、もはや臨終だと言うのだ。古びたガランとしたこの家にはもう何一つ品物もなく、この家すらも抵当に入っている。男たちはもし鶴代が死んだ場合、その葬儀の責任をだれが負うかでもめた。その挙句、かつて鶴代の亡夫の囲い者であり、今は亡き貝原咲江の娘多恵子にその責任をなすりつけようということになった。そこで池袋辺のカフェにいる多恵子が連れてこられた。多恵子はその縁者の男たちには冷たい眼でみられていたが、今日ばかりは丁重に迎えられた。ところで二階の部屋でこんこんと眠り続ける鶴代は、ふっと眠りから覚めた。ユキは驚いてみんなを呼んだ。集まった人々を見回す鶴代は、何ごともなかったような爽やかな面もちであった。そして「みんな集った機会に、たった一つ残してある宝箱を見せる」と言いだした。男たちは急に眼を輝かした。ところがその宝箱はどこにあるのかわからない。男たちは醜く争って地下室や物置きを探しまわった。多恵子はその男たちの物欲の亡者たちを鋭く眺めるのだった。やがて宝箱は鶴代の手によって見つかった。ふたをあけると二重底になっていて、静かに「舞踏への招待」の音楽が流れ出した。男たちはその箱を手に入れんものと、手のひらを返すように鶴代の御機嫌をとった。しかし鶴代はそれを多恵子の手に預けてしまった。やがて男たちの提唱によって鶴代の機嫌をとるために舞踏会が開かれることになった…。