1956(昭和31年)/2/5公開
配給:松竹(受託配給) 製作:近代映画協会
新藤兼人が脚本を書き、吉村公三郎が監督、宮島義勇が撮影を担当した。主な出演者は斎藤達雄、津島恵子、宮口精二、田浦正巳、若山セツ子、佐野周二など。
かつては劇作家として鳴らした木島進作も今はジャーナリズムから置き去りにされ、大磯で無気力な毎日を送っている。家族は進作をいたわりの眼で見つめる老妻民江、好人物で細君に頭の上らない銀行員の長男孝太郎、アルバイト大学生の三男泰三郎、国道のドライブ・インに勤める次女熱子、それに戦死した次男君二郎の嫁咲枝たちで、長女藤子は他家へかたづき、これも近所に住んでいるが、彼らの関心といえば、進作に作家として往年の覇気を取り戻させたいことと、咲枝によい縁談があったら再び幸福になって貰いたいという善意だけであった。熱子のボーイ・フレンド加島の手はずで、ある貿易会社に就職口が見つかったものの潰れかけたインチキ会社と判って進作にはまた退屈な日常が始まった。見かねて咲枝は劇団若草座の演出家水野を訪ね、父に脚本を書かせてくれと頼んだ。その頃、孝太郎の同僚酒井と咲枝の間に縁談が進んでいた。ある日、脚本を書き上げた進作は咲枝と若草座に届けての帰り銀座の料理屋で乾杯したが、その喜びもやがて踏みにじられた。脚本は採用されなかったのである。咲枝と泰三郎は駅近くの屋台で酔いつぶれている失意の進作を見つけた。咲枝が嫁いで行く日、ひそかに思慕をよせていた泰三郎は、駅に咲枝を見送ると、砂丘に寝転んで涙ぐむのだった…。