1958(昭和33年)/12/7公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
隅田川畔のバタヤ部落に身を投じた、カトリック信者の女性の一生を描いたもの。原作は蟻の街の住人松居桃楼で、長谷部慶次が脚色、五所平之助が監督した。撮影は竹野治夫。宝塚出身の千之赫子がヒロインに抜擢されたほか、斎藤達雄・南原伸二・佐野周二・渡辺文雄らが出演する。
昭和二十五年、浅草の近く隅田川・言問橋のそばのバタヤ部落、蟻の街に一人の可愛いお嬢さんが訪れてきた。「何か私にすることない?私なんでもやるわ」バタヤたちの好奇と不審な目が光った。彼女の名は北原怜子。農学博士の父と優しい母をもつ健康な家庭の娘で、マリアの洗礼名をもつカトリック信者だが、この不幸な人々の集団を知って救いの手を差しのべようとやってきたのだった。蟻の街には立派な自治組織ができていた。会長を中心にバクチ打ちの五三と彼の女房、元大佐、オンリー上りなど、いずれも変わった人間がよくまとまって将来に備え天引貯金さえしていた。これらの人々の結束を固め、指導しているのが先生と呼ばれる松木だったが、彼は飛び込んできた怜子を利用し盛大なクリスマスを蟻の街で催し、毎朝新聞に取り上げてもらおうと計画した。蟻の街は都庁から追い立てられていた。それをはねかえすにはジャーナリズムを先頭にした世論の同情が必要だったからだ。こうして怜子は、たとえ利用される小道具にもせよ、蟻の街の仲間入りができた。バタヤ部落を巡回しているゼノ神父とも知り合った。クリスマスは大盛況で先生の思い通りの成功をおさめた。怜子は部落の子どもたちに勉強を教えるようにもなった。夏休みになったころ、怜子は海へも山へも行けぬ子どもたちを箱根に連れて行ってやりたいと思い立ち、その資金集めにバタヤ車の梶棒を握った。
サン・セバスチャン国際映画祭国際カトリック・フィルム・オフィス賞