1959(昭和34年)/9/27公開 74分
配給:松竹 製作:松竹株式会社
木下恵介が書き下ろし、自ら監督したもので、庶民生活の空しさ、悲しさを描き出そうとするもの。撮影は楠田浩之が担当。
湘南の海の近くの小住宅が、佐藤の家である。主人の正一は、東京の会社へ勤める安サラリーマンだ。妻の保子は息子の一雄と家事に忙しい。平凡な生活。家の借金返済のためもあり、会社の部長に月六万円で避暑用に家を貸すことにした。正一は東京の同僚のアパートに転がりこみ、保子は子を連れ、軽井沢の実家に帰った。雑貨屋の実家には、母のほかにタクシー運転手の弟哲生、働き者の春子夫妻とその子、小諸の町工場勤めの弟、真面目な五郎たちが和やかに暮らしている。鍋を買いに来た中老の男・周助は一年ほど前から材木屋のはなれに小さい女の子と住んでいる。五郎は帰着した材木屋の娘紀子に淡い恋を感じた。流れこみのヤクザ・赤田の子分どもが、紀子とその友人たちをおどし、殴りつける事件が起きた。子供たちの水遊びを見守りながら、周助はそれらヤクザたちへの憤りを保子にもらす。佐藤が東京からやってき、北軽井沢に避暑の専務夫人を訪問した。麻雀のお相手である。保子は同行したが、会社のことばかり考えている夫が不満だった。彼女が周助の家を訪ねた時、彼は石屋に頼まれた墓の戒名を書いていた。彼は元陸大出の軍人で、戦争で人間を殺した罪を感じ、子供だけを頼りに、旅館女中の妻とも江の仕送りで細々と暮らしているという。恩給さえも断ったから、妻は怒り、今では名ばかりの夫婦である。彼の口ずさんだ藤村の詩が保子の心の底にしみこんだ。