1961(昭和36年)/1/22公開
配給:松竹 製作:松竹株式会社
上村力が自らの脚本を初めて監督した抒情編。上村監督は昭和4年生まれ、東大法学部卒業後28年松竹に入り、木下恵介監督に師事した。撮影は舎川芳次が担当している。
仁史はある大工場の研究室に勤務する科学者である。彼をひそかに愛している同僚の圭子さえ、いつも公式通りに動いている電子計算機のような人というくらいの変人だった。そうした仁史の性格は、彼の出生の秘密にあった。出産で母を失い、乳母のはるに彼女の子供哲男とともに育てられたのだが、母の死が封建制の犠牲になったものであることを知ったのだ。祖父が父の意志を無視して、家の後継ぎのためには命をも捨てるのが女の道だと、仁史の生とひきかえに母の命を見放したのである。仁史は自分自身の存在に矛盾を感じて悩みつづけた。ある日曜日、仁史は助手の藤野に誘われ、彼が愛している洋子と彼女のグループ明美らと箱根にドライブに出かけた。散歩の途中、突然濃霧に襲われてしまう。仁史と明美の二人がとり残された。仁史のたわむれのキスが明美には忘れえぬものとなった。仁史の心血を注いでいた研究に中止命令が出た。憤まんやるかたない彼は、明美をバーに誘った。仁史は生い立ちを明美に打ちあけた。彼女も父が戦死した後、貧しいために母と離ればなれに暮らさねばならなくなったことを告げた。弧独な二人は、その夜結ばれた。仁史が明美にプレゼントするというと、明美はハート型のペンダントを求め、その半分を仁史に渡した。ある日、仁史はトラックの前に走り出た幼児を救った。圭子は彼にも暖かい心がよみがえったのを知り、喜んだ。そんなころ明美は妊娠したことを知り・・・。