1975(昭和50年)/6/7公開 98分
配給:松竹 製作:松竹株式会社
第二次大戦末期、日本を破滅の淵から救うため、祖国、妻子を捨てた男が、17年ぶりに帰郷した事から発生する殺人事件、揺れ動く父と娘の心情をミステリアスに描いたストーリー。脚本は星川清司、監督は脚本も執筆している貞永方久、撮影を坂本典隆がそれぞれ担当している。
昭和36年初夏。関西での取材を終えた新聞記者添田は、大和路で婚約者の野上久美子と合流した。大和路は久美子の亡き父・野上顕一郎がこよなく愛した場所であり、彼女は亡父に自分の第二の人生の出発を告げに来ていた。ところが唐招提寺の拝観者芳名帳の中に、亡き父にそっくりの、中国の古人・米帯の書に習った筆跡を発見した。翌日、久美子は添田を伴って筆跡の確認に向かうが、その部分だけが破りとられていた。二人は帰京すると、久美子の母・孝子にこの事を話すが、とりあってくれない。しかし、添田は何となく判然としなかった。久美子の父・顕一郎は、第二次大戦末期、ヨーロッパの某中立国公使館で、一等書記官を務めていたが、終戦一年前、任地で病のため客死した、と当時の正式な公電によって伝えられている。添田は、当時野上の部下で、現在外務省欧亜局課長の村尾、当時現地の特派員で公使館に出入りしていた滝に会ったが、不思議に二人とも反応は冷淡だった。添田が、ますます野上の死に疑問を持った頃、久美子の周辺に奇妙な出来事が続いた。名も用件も告げない電話や、商品が届けられるのだ。元公使館付軍人、伊東が訪問したのもこの頃だった。ある日、久美子と孝子は何者かに歌舞伎座に招待された。添田も内緒で二人の後に歌舞伎座に入ると、そこには村尾、滝、伊東も来ていた。この不思議なめぐりあわせに、添田は久美子の父が生きて、この日本に来ている事を確信した……。