1981(昭和56年)/9/12公開 119分 カラー
配給:松竹 製作:松竹株式会社
『富嶽三十六景』の他に『北斎漫画』で春画の大家としても知られる葛飾北斎と娘・お栄の一生、ふんけいの友、滝沢馬琴との交流を描いたストーリー。矢代静一の同名の戯曲の映画化で、脚本・監督は新藤兼人、撮影は丸山恵司がそれぞれ担当している。
鉄蔵と娘のお栄は左七の家の居候になっている。鉄蔵は、貧しい百姓の生まれだが、幼時、御用鏡磨師、中島伊勢の養子となった。巧みに絵を描くので、絵師の弟子となるが、尻が落ちつかず、幾人もの師から破門された。一方、左七は侍の生まれたが、読本作家になりたいと志し、下駄屋の養子に入り込んだ。左七の女房お百は居候の父娘に我慢がならない。そんなある日、鉄蔵はお直という女に出会った。鉄蔵は一目でお直にのめり込み、彼女を描くことで、つき当たっている壁を破ろうとするが、不思議な魔性に手応えがない。鉄蔵はお直を養父、伊勢に紹介することで、彼女と別れ、また金もせびることにした。その伊勢も、お直の魔性にとり憑かれ、首をくくって死んでしまう。その頃、お百が死んだ。そして、間際に、立派な作者になってくれ、滝沢馬琴という名は良い名だと言い残す。左七はせきを切ったように書き始めた。たちまち流行作家となった。今や父と長屋暮らしのお栄は左七を訪ね、読物の挿し絵を父に描かせて欲しいと頼む。左七は喜んで引き受けた。鉄蔵が北斎の名で描いた絵は評判になり、放浪の旅で「富嶽三十六景」が生まれた。そして、北斎は八十九歳、お栄は七十歳、馬琴は八十二歳となった。ある日、お栄がお直と瓜二ツの田舎娘を連れてきた。「お直っ」と叫ぶ北斎。一人になった北斎は“お直”を裸にすると、一気に描き始めた。巨大な蛸が、裸女に絡みつき、犯している図だ。かくして、傑作「喜能会之故真道」の蛸と海女の性交の図が出来上がった。馬琴が亡くなった。そして、北斎も亡くなった。
ブルーリボン賞助演女優賞(田中裕子):日本アカデミー賞助演女優賞(田中裕子):ゴールデン・グロス賞特別番組賞