1981(昭和56年)/1/30公開 105分 モノクロ スタンダード 映倫番号:110234
配給:東映セントラルフィルム 製作:木村プロダクション
「大地の子守唄」「曽根崎心中」についで木村元保が製作した第3作。原作は芥川賞作家・宮本輝の処女作であり、第13回太宰治賞受賞作品である。本作が初監督作品となる小栗康平は、モノクローム、スタンダード画面という古典的な手法で「生」のかたちを今、逆上せずにとらえることの困難さに挑んで、戦後生まれのある世代の原質を探りあてようとしている。舞台は戦後の混乱期を経て朝鮮動乱の新特需を足場に高度経済成長へと向う、いわばそのとば口にあった昭和31年の大阪安治川河口。物語は、河っぷちの食堂の9歳になる少年と、その対岸にある日つながれた廓舟(くるわぶね)の姉弟とのつかの間の交流と別れを描きながら、戦争と終戦を経て人生を決めた大人たちの移ろいゆく傷とためらい、そこにつらなる自分の出生と成長を純粋な少年のまなざしで映し出している。
配給受託作品
まだ焼跡の匂いを残す河っぷちで、食堂を営む家庭がある。その一人息子で9歳になる信雄は、ある雨の早朝、橋の上で鉄屑を盗もうとする少年、喜一に出会った。雨に煙る対岸にその日つながれた、みすぼらしい宿船の少年である。船の家には銀子という優しい姉と、板壁の向こうで声だけがする姿の見えない母がいた。友達になったことを父・晋平に話すと、夜はあの船に行ってはいけないという。窓から見える船の家が信雄を魅惑し、不安にする。タ飯にその姉弟を招いて父母が暖かくもてなした時、喜一が歌をうたった。「戦友」であった。子供たちの交流が深まり始めたある日、見知らぬ一人の男が食堂を訪ねた。終戦直後、晋平が別れたかつての女房の病変の知らせである。不可解な人生の断面が信雄に成長を促していく。楽しみにしていた天神祭りがきた。だが、その祭りのさなか、喜一は握りしめたお金を落としてしまう。しょげきった信雄を慰めようと喜一は、夜、船の家に誘った。泥の河に突き差した竹笥に蟹の巣があった。喜一はその宝物である蟹にランプの油をつけ火をつけて遊ぶのである。船べりを逃げる蟹を追った時、信雄は喜一の母の姿を見た。船は廓舟と呼ばれていたのである。翌日、船の家は岸を離れた。信雄は曳かれていく喜一の船を追い続けて、初めて生きることの悲しみを自らの人生に結びつけたのである。
第5回日本アカデミー賞(最優秀監督賞・最優秀撮影賞・最優秀照明賞)