1960(昭和35年)/3/1公開 84分 カラー シネマスコープ 映倫番号:11607
配給:東映 製作:東映
大江戸百夜に続々とまき起こる恐怖の殺人事件。舞い狂う風車にも似て、謎は謎を呼び、右門とアバタの敬四郎の間に火花散る捕物合戦が展開する!
「ヒーッ人殺しッ」恐怖に戦く若い娘の悲鳴、鮮血にまみれた短刀を手に呆然たる若い男、その足元には、でっぷり太った中年男の死体が凄まじい形相で転がっている…。
腰巾着のおしゃべり伝六と近江屋の娘・お春を相手にのんびりと釣を楽しんでいた御存知八丁堀の名同心・むっつり右門こと近藤右門の新春初手柄の幕が切って落されたのである。
礼差天満屋の女中・お加代は、弟が持ち出した店の金三両を主人に返すため、恋人の木場人足・已之吉と共に橋場の寮を訪れたが、二人を待ち受けていたのは、背中を短刀で剌された無残な天満屋の死体。思わず動転した已之吉は、その短刀を手に取ってしまう。
夢中で逃げ出す二人を乞食の留が引留めて脅迫した。殺人の濡れ衣を晴らそうと真犯人と見られる浪人者を追う二人は、留の口から「三社様へ」と耳打ちされた。
「ようし判った、下女のお加代が恋人の已之吉をそそのかして、金ほしさの犯行じゃよ」筆頭同心のアバ敬こと村上敬四郎の推理は例によってまことに明快(?)である。
「ちえッ、やンなっちゃうな、とにかくウチの旦那は、そちら様とはちょっと智恵袋が違うんだから。まァ、右門の旦那に任してもらいましょうよッ!」
伝六の信頼をよそに、むっつりと何を考えるか近藤右門。鋭い視線の彼方には勘定奉行御用の天満屋、和泉屋、近江屋と書かれた荷揚場の標識がある。「だ、旦那ッ!チェッ!また寝っころがって…」
速射砲のようにまくし立てる伝六兄ィにも耳をかさずのんびり寝転がっていた右門が、「あわてるなぃ、もう来る筈だがな」。
その言葉の下から訪れたのは、近江屋の女房・お種だ。天満屋殺しの凶器は近江屋の持物だが、その近江屋は大阪に居ると云う。
「犯人は町人じゃねェ。相当腕の立つ奴だ」
お種を慰める右門の耳に、アバ敬の破れ鐘のような声がかかった。
「犯人は、浪人・半田権九郎と相判ったぞッ!ご免!」
「ど、どうします旦那ッ?」
慌てふためく伝六にお種の尾行を命じて一人役宅を出た右門を突如白刃が襲った。
閃めく十手、打ちすえられた浪人に「草加流の逆手、ちったァこたえたかぃ?」と胸のすくような右門の啖呵が飛んだ。
浪人の名は、アバ敬が犯人と目す半田権九郎、濡れ衣を晴らすため右門を親分の巾着切・稲妻お由の家へと連れ込んだ。二人の話から、蔭で糸を引く乞食の留と恋人のお里を乞食小屋で問いつめたが、逃げ出した留は何者かに剌され「三社様」と一言残して息絶えた。
三社境内には、已之吉、お加代、それに母の挙動に不審を抱くお春たちが謎の浪人者を待ち受けていた。極楽の長次というならず者と云い争うお種、もう一人事件の夜の浪人者・兼田軍次が茶店に入った。
「あッ、あの侍だッ!」
只一人茶店に飛び込んだ已之吉は、背に短刀を剌された惨たらしい和泉屋の死体を見て逃げ出した。
「また同じ手口だナ」
顎に手をやり撫然とつぶやくむっつり右門、その言葉とは反対に目には決意の色が漲っている。
松平伊豆守に呼ばれた右門は、勘定奉行・戸田内膳から真犯人について尋ねられた。
「腕の立つ侍、それを操る謎の男、多分地獄から来た男でござりましょう」
地獄から来た男を追って右門の眉が上った。
風車屋のピー子、ナツ子の双児の姉妹にかくまわれた已之吉とお加代を黒覆面の一団が襲う。
「身代りは終った。死ねッ!」じりじりと迫る凶刃に「待てッ!」白装束、紫頭巾の男が、天井から降って来た。
「右門参上、これが、しころ正流居合抜きだッ。」右門の愛刀一閃、かなわずと見て一団は逃げ去った。
お種宛の手紙をお春から見せられた右門は囮の返事を渡させた。
消息不明の近江屋を求めて、右門得意の謀計が張りめぐらされる。伝六兄ィを筆頭に、右門の庇護を受ける已之吉、お加代、江戸っ子の意気を見せるお由と権九郎らが、右門の手足となって活躍する。
月光に輝く近江屋の十番倉に、笑を含んだ黒覆面の一団が忍び込む。と、一同の前に高笑いと共に、颯爽たる右門が現われた。愛刀一閃すれば、米俵の中から転がり出る近江屋の死体。さらに他の俵からは、横領された御用金が、山吹色も燦然とこぼれ出た。声もなく、静寂の中に対決するむっつり右門と、地獄から来た男の凄まじい殺気が夜霧に流れる。
地獄から来た男の正体は? そして事件の謎は…?
「右門捕物帖」シリーズ(7)