1960(昭和35年)/4/19公開 81分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:11598
配給:東映 製作:東映
若き反抗期にある少年の微妙な心理と、肉親愛の葛藤、兄弟の対立など、現代の素顔とも言うべき歪んだ青春を巨匠佐々木康監督が描く激情篇。
何不自由のないブルジョア育ちの少年・中川哲也は、継母の美代と義理の兄・昌行になじまず孤独な日常を送っていた。
ある日哲也は、街の愚連隊と喧嘩をした事から警察沙汰となり留置場へ送られる。警察からの報らせで女中のせつは、心配顔で美代にこの事を伝えたが、美代は何知らぬ顔、昌行の入社試験や大株主の令嬢との縁談に夢中だった。女中のせつは、そんな哲也の不幸な境遇に同情し、父・修作に連絡する。父の迎えで無事出署した哲也は温かい父の愛情にふれて嬉しかった。だが哲也の美代に対する不満は続き、兄の昌行にもその不満は広がった。その昌行にはファッションモデルの奈緒美という遊びの女がいたが、美代は可愛い昌行にそんな女がいるとは夢にも思わない。昌行はまんまと母を瞞して奈緒美への手切れ金二万円を持ってキャバレー「クイン」に出向いた。同じ頃哲也は、道端で拾った歌手・ユリの定期入れを届けるため「クイン」に現れ、偶然にも兄と奈緒美の姿を発見するものの気にも止めなかった。哲也はそこで留置場で知り合った花売り・バラの龍と再会する。哲也の純眞さを愛した元やくざの龍は哲也をはユリに紹介し、ユリを一目見た哲也の若い心には清らかな恋心が生まれるのだった。
一方美しいユリは、バンドマスターの坂本に狙われていた。坂本のユリヘの執拗な態度に憤った哲也は坂本を一撃するが、坂本は愚連隊を使って哲也を待ち伏せたが、哲也の危難はバラの龍に救われる。龍は哲也の非をさとし大学への進学を奨め、哲也も予備校志願を決めるのだった。
中川家では相も変らず修作と美代が哲也と昌行の庇い合いを続け夫婦喧嘩を繰り返していた。と云うのも美代が哲也が五万円を盗んだと一方的に修作に詰め寄ったからである。哲也を庇う修作と美代は激論を続けている時に帰宅した哲也に昌行が罪をかぶせようとしたため哲也の怒りが爆発、ニ人は憎悪をこめて対立する。理由を知らぬ修作は、哲也可愛さ故に哲也を打ち、哲也も夢中で父を殴ってしまった。
父の手を振り切り、一目散にユリのアパート「椿荘」へと走る哲也。無性に淋さを覚えた哲也はユリに自分のすべてを打ち明けた。両親を失い、孤独の身であるユリはそれを涙の中で聞いてくれた。哲也の恋心はこの日から、ユリヘ更に一歩近づくのだった。ユリに元気づけられながらようやく家へ戻った哲也は猛烈に勉強を始める。
生れ変った哲也を嬉しく思う修作は、ふと訪れた哲也の勉強部屋にある肖像画に目を止め呆然とする。そこに描かれた婦人は別れた前妻の姿だったのだ。それは哲也がユリから貰ったものである。修作は驚愕のうちに秘められた過去を哲也に打ち明けた。哲也とユリ…二人の母は同じ人だったのだ。父は過去の償いのために、ユリを巴里へ留学させようと言った。哲也はその喜びを伝えるためにユリのアパートヘ向かうが、ユリは自動車事故で病院へ運ばれていた,白いベッドをはさんで二人は泣いた、そしてそれはようやく笑顔に変っていった。哲也の恋は美しい思い出として消えたが、二人は兄妹になったのだ。
ユリの入院中、アパートに残されていた文鳥が死に、ユリの落胆を防ごうと懸命に良く似た文鳥を探す哲也は、ある街で昌行が愚連隊に囲まれているのを見つける。愚連隊には奈緒美の情夫の梅村もいた。哲也は我れを忘れて昌行を助けた。昌行の眼が感謝に濡れた。昌行は自分の非を認めて、五万円の件を父母に打ち明けた。美代の自信は崩れた。だが継母の姿を哲也は、暖かく見つめるのだった。やがてユリの退院の日がやってきた。父と共に病院に向う哲也の顔は晴々と明るかった。