1960(昭和35年)/9/18公開 104分 カラー シネマスコープ 映倫番号:11859
配給:東映 製作:東映
時代劇としては異色の本格的海洋スペクタクル巨篇。南海の大海戦あり、蛮人の襲撃あり、熱帯樹の陰に咲く情熱の恋ありと娯楽要素がたっぷりと盛り込まれている。
八幡船とは戦国乱世の頃、瀬戸内海の島々を根城に遠く明国・朝鮮・ルソン・シャムなどの諸国との交易通商のために雄飛した船団の名だ。そして船首にひるがえる八幡大菩薩の旗印の蔭には、輝ける海の男道の伝説がある。
永録四年、日本最大の貿易港泉州堺の船問屋・壺屋道休の息子・鹿門は、廓からの帰り道に黒白斉や伝馬と称する八幡船の男たちに囲まれて、自分が八幡船の旗頭でかつての江州佐和山城主・磯野丹後守の忘れ形見だと告げられる。
そして、道休こそ丹後守を裏切り、“めくら船”を奪った謀叛人と明かされるが、鹿門は海賊たちのたわ言と全く信用しなかった。
ところが、八幡船の男が堺に現れたことを知った道休は、財産を淡路丸に積み込むと足止めの禁令を破って堺の港を脱出しようとしたが、軍兵たちの放った矢に倒された。
鹿門はそれでも道休を実の父と信じて八幡船の招きを断る。困惑した黒白斉たちは止むを得ず鹿門を失神させると青影丸に担ぎ込んだ。
大海原に乗り出した青影丸の船中で気付いた鹿門は、妹の小静が淡路丸と共に姿を失ったことを知って船を戻せと絶叫、嘲笑した村上水軍の若大将・新蔵人と死闘を展開するが、いずれ劣らぬ剛勇ぶりで二人共甲板に打ち倒れてしまった。
青影丸はやがて村上水軍の本拠地・因島に入港したが、手を振り旗を振って船を迎え歓喜する島人たちの姿は、強く鹿門の胸を打った。
鹿門はここで水軍の頭領・村上入道に対面し、新造の“めくら船”に乗って「父君の道志をつぎ、謀叛人たちの暴挙を平定して、八幡船の名を高めてくれ」と説かれる。
しかし道休、小静を思う鹿門は頑くなに断り通すが、めくら船の二代目頭領として鹿門を歓迎する村人たちの純朴な心は次第に鹿門の気持を柔らげていった。
そして、入江に横たわるめくら船は鹿門を招く。思わず船に足を入れてしまった鹿門に、父母、兄弟を殺された琉球娘の謝花がニセめくら船の海賊の非道ぶりを涙ながらに語るが、鹿門の決意は固く、小舟を駆って島を逃げ出した。
その鹿門を待つかの様に目の前に淡路丸が流れて来た。妹の名を呼びながら船に飛び上った鹿門が発見したのは累々と横たわる死体の山ばかりであった。
鹿門は決心した。「俺は船に乗る。そして小静を探し、父の復讐を果たす…」
高々と八幡大菩薩の旗印は上った。青影丸、住吉丸、そして鹿門が指揮をとるめくら船と船団は黒潮に乗って矢の様に滑った。
女人禁制のはずの八幡船には、新蔵人の妹・寿賀と謝花が密かに乗り込んでいた。
ある日、激しいスコールをついて、突然ニセのめくら船が出現した。
船と船との体当り、激しい砲火、水柱、吹っ飛ぶ帆柱、激しい大海戦となったが、悪運強い右衞門太夫のニセ船は船足を利用して水平線の彼方に逃げ去った。
八幡船団は修理のため、熱帯樹生い茂げる貝殻島に寄港する。
鹿門を恋しながらも強情を張って与太ばかり飛ばしていた寿賀も、いつしか柔順な乙女心に目覚め、今日も鹿門の後をついて森の中を逍遙する。新蔵人も熱帯樹の蔭で謝花とロマンスの花を咲かせていた。だが、夢みるような南国の甘い一時は狂暴なバランガ族の急襲で破られた。鹿門、新蔵人たちは追いつめられながらも、伝馬の機転で火薬を使ってこれを撃退、鹿門に生命を救われたもとニセめくら船の一方の旗頭・陳赤龍の報告でニセ船団がこの島に入港しているのを知った。
好機到ると勇躍した鹿門と新蔵人たちは、酒宴に狂う敵船に忍び寄り、捨て身の切り込みを仕掛けた。轟く火砲、風を切る白刃、南海の夜空を赤く染める激闘が展開された。
鹿門は短銃を振り回して逃げる右衛門太夫を斬り、父の仇を討った。
小静も無事だ。朝焼けの空に八幡大菩薩の旗は翻り、八幡船団は追風を帆にはらんで出航する。胸を張り大海原をじっと見つめる鹿門の頬には海の男の誇りが輝いているかの様だ。