1960(昭和35年)/10/9公開 85分 カラー シネマスコープ 映倫番号:11926
配給:東映 製作:東映
高田浩吉が「花笠椿」に次いで旅鴉・伊豆の佐太郎に扮した旅の長脇差シリーズ第二弾。材木問屋・天城屋の身代とその株を狙う無法者・地廻り雷神の岩松を叩き斬り、行方定めぬ凶状旅にでた伊豆の佐太郎が、目深に被った三度笠の蔭に天城屋の娘・お美代恋しの涙を秘めて、啖呵と度胸で押し渡る男一匹長脇差仁義を、鉄火渡世の哀歓のうちに描く股旅慕情篇。
やくざな暴れん坊を堅気の佐太郎に育て上げた材木商・天城屋平左衛門の大恩に報いんと、賭場狂いの若旦那・鮒次郎を岩松のイカサマ賭場から救い出し、お礼参りを仕掛けた岩松を心の誓いを破って長脇差一閃叩き斬った佐太郎は、涙ですがる天城屋の娘・お美代の手をふり切って、凶状旅の草鞋をはいた…。
数ヶ月が流れ、ここは旅人の往来でごった返す府中の宿。
黒山の人だかりを呼んでいるチョボ将棋のイカサマに引っかかって裸にされようとしている旅商人を助けた粋な旅鴉がある。縞の合羽に三度笠、旅人姿がすっかり板についた佐太郎である。この佐太郎に駒隠しのインチキを見破られて逆に二十両を巻き上げられたイカサマ師・素っ飛びの弥次は、香具師の面目にかけて真剣勝負を挑むのだが、佐太郎は、金は返すからといってこれにとり合わない。男の変な意地がからんでもつれた二人の間柄は、伊豆の下田に碇泊中である黒船のハリス船長にあてた井伊大老の密書を狙う長州藩士・塚越源兵衛たち十数人を相手に決死の闘いを続けている彦根藩士・宇津木伝之丞、数馬の兄弟の悲壮な姿に義を感じ助太刀を買って出た事から男の友情へと発展する。塚越一味の執拗な追跡に、町はずれの掛け小屋で興行中の娘演芸・中村綱太夫一座の舞台の真っ只中に飛び込んでしまった佐太郎と弥次と深傷を負って血まみれの宇津木兄弟だが、佐太郎の咄嗟の機転による得意の美声の一節でこの場は事なきを得る。こんな奇縁で一座とも親しくなった佐太郎は、傷がもとであえない最後をとげた伝之丞の遺志を継ぎ、数馬と密書を守って下田を目指して旅をともにするのだった。ところが、肝心の数馬が一行に迷惑の降りかかるのを恐れて置手紙を残し、密かに一人旅立つという思いがけない出来事が持ち上がる。佐太郎は数馬を連れ戻すべく、夜の桂川堤でもみ合ううちに数馬が女であるという意外な事実に気づく。重い使命を果たさんがために数馬と名乗ってはいたものの、佐太郎に接して愛する苦しみを知るようになった伝之丞の妹・絹代だったのだ。佐太郎の優しい計らいに女に戻った絹代を守って網太夫一座の巡業は再び下田を目指して旅立った。弥次と一座の花形・胡蝶のむつまじい姿がほほえましい話題をまいて足どりも軽い一行だが、これとは逆に、懐かしの伊豆の山々の姿に接して、堅気になって帰って来ると誓った厳しい心に未だやくざ姿を恥じて気持ちの重い佐太郎だ。愛するお美代にだけはどうしてもこんな姿を見せたくないと、決然ときびすを返す佐太郎の後姿が江戸へ続く東の空に消えてゆく…。
こんな佐太郎の厳しい気持ちをよそに、伊豆の湯の島には佐太郎の長脇差を真っ向に浴びながら九死に一生を得た岩松が、平左衛門をだまし討ちにして天城屋の身代を乗っ取ろうとしていた。そして御用材納入の人夫代にもこと欠く有様の天城屋の窮状を見兼ねて生前の平左衛門に受けた恩に報いようとする網太夫一座の特別興行の舞台となる天城屋の材木蔵へと向かう賑わいを見せてひきもきらない人波の陰にも、手段を選ばない岩松一家の不気味な罠が待ち受けていた。
折も折、天城屋の特別興業を絹代とその密書を奪う最後の機会とする塚越一味の手段を選ばぬ執拗な追跡の手が天城屋目指して怒涛の如く雪崩込んだ。時にお美代と絹代をかばってずいと進み出た三度笠。「時勢を知らぬ盲共ッ!」と斬り込みざま、「あの世の旦那様への追善供養、地獄の閻魔へ呉れてやらっ!」と塚越一味と岩松一家相手に佐太郎一世一代の長脇差剣法の幕が斬りおとされる。何の因縁で木挽きに惚れた、花の盛りを山奥で…樵の斧がこだまする天城山中の原始林に天城屋の主人・佐太郎が歌う木挽き歌が流れて…空も日本晴れだ。
「旅の長脇差」シリーズ(2)