1961(昭和36年)/1/15公開 88分 カラー シネマスコープ 映倫番号:12038
配給:東映 製作:東映
松本藩十四万石の浮沈を賭けて、大江戸の夜のしじまを血に染めた妖気身にせまる丑刻詣りの謎に挑む、むっつり右門と謎の男・与吉が火花を散らす捕物推理合戦。
「旦那、御出馬だ、御出馬だ」小粒な体に似合わぬ大声でとび込んできたのはおしゃべりの伝六、その声にむっくり体を起した美丈夫は言う迄もなく江戸一番と謳われる顔よし、腕よし、推理よしの名同心・むっつり右門である。殺しの現場は昼なお暗い下谷の煉塀小路の榎妙見境内、殺されたのは身分あり気な侍だという。とそこへ第二の殺人事件発生の報せが届いた。常日頃からとかく功を急ぎたがる筆頭同心・あばたの敬四郎ことあば敬が、下っ引きのちょんぎれ松をひきつれ今度こそはと榎妙見にすっとんだ後、右門は伝六ともども第二の殺人現場・柳原の髭すり閻魔堂に姿を現した。カッと目を剥き虚空を掴んで倒れているのはこれまた主持ちらしい身分あり気な侍…一見絞殺の様に見えるその首筋に残った針の先ほどの傷に右門の目が光った。そしてもう一つ、右手にしっかりと握られた金槌と数本の三寸釘。目前の杉の大木に不気味に釘付けされた手足の揃った呪いの人形。その足で廻った妙身堂の殺し現場も柳原と寸分違わぬ状況であった。一見絞殺風、首筋の傷、呪いの人形、裏に書かれた巳年の男、二十一才と墨痕あざやかな文字も全く同じである。
翌日、上野天海寺へ向かった右門は侍の一団に追われる美しい武家娘・千鶴を救った。その首領株の侍は、数日前、上野で自称すりの与吉と名乗る男を追い廻しやっぱり右門に散々に痛めつけられた男…それ以来与吉は右門宅の押しかけけ居候におさまりかえっているが、何か油断のならない鋭さが右門の注意をひいていた。天海寺に出向いた右門はここで江戸の丑の刻詣でに使われる場所を聞き出した。先ず第一は練塀小路の妙見堂、続いて柳原の髭すり閻魔堂、湯坂坂下の三つ又稲荷、本所四つ目の生き埋め行者、日本橋本銀町の白旗金神の五ヶ所。その夜、三つ又稲荷に右門は網を張ったが、第三の殺人事件は本所四つ目の生理行者で行われた。得意の顎なでポーズで呪いの相手を考えていた右門は、やがてハッとしたように武鑑を繰り始めていた。斬れない相手、それは死んだ侍たちの主君であることに右門は気付いたのだ。そして巳年二十一才の若殿様が信州松本藩主四十万石・水野甲斐守信之と判った瞬間、右門の顔色が変わった。水野甲斐守とは、右門が心服する松平伊豆守の御舎弟であったのだ。急ぎ伊豆守邸に出向いた右門の前に伊豆守の顔は暗かった。将軍家光の寵愛を嫉む大老・土井大炊頭が早くも水野家の内紛を嗅ぎ出して伊豆守の失脚を狙っているらしい。右門ファンの妙姫に励まされた右門の活躍が始まった。その夜ひそかに水野家の上屋敷に忍び込んだ右門は、やはり木立にうずくまる与吉の姿を発見するとともに、与吉や千鶴を襲った侍が水野家の家臣である事を突き止めた。三つ又稲荷に再び網をはった右門は、あば敬らに邪魔されて犯人を逃したが、手には証拠の吹き矢が握られていた。同じ夜、第四の殺人事件が白旗金神に発生したが、新川町三河屋でも殺人が起こり多額の金品が盗まれた。現場に落ちていた練り薬から、右門は連続殺人事件のどさくさに紛れた島帰りの南蛮鮫の辰一味の仕業であることを見抜き、あば敬にそれを教えると水野家の内紛から目をそらさせた。残された吹き矢は娘曲芸師・駒形屋お花のものである事が判明し、伝六の働きでお花、千鶴父子の身許が割れた。千鶴の父は悪人どもに斥けられた、もと水野藩の家老・村井信濃、お花は千鶴こと田鶴の乳母の娘である。二人は女ながら病身の父に代り、密かに主君信之の生命を守り続けていたのだ。
今日はいよいよ丑の刻参り満願の日。悪家老・島右京之亮に命じられた武平太らは、大拳三つ又観音堂になだれ込んだ。それを阻止するお花、太鶴、だが女の細腕では次第に危地に追いつめられたその時、二人をかばって立ったむっつり右門の目もさめるような草加流、錣正流に一行はことごとく叩き伏せられた。その頃、水野家では村井信濃が右京之亮らに捕らわれ、病床の信之を見舞う伊豆守の前で主君調状の罪科により断首されようとした時、飛鳥のように躍り込んだのが右門。右京之亮が己の不義の子・鶴丸を跡目にせんと企み、島帰り南蛮鮫の辰をも抱き込んでの悪事の数々を暴くと、一刀のもとに斬り捨てた。だが残る敵はもう一人、土井大炊頭の隠密・千波小次郎こと与吉だが、北辰一刀流の名手・千波小次郎も右門の侍としての心意気と何時しか芽生えたお花への愛情から隠密稼業から足を洗うことを決意した。「右門、わしは良き友を持った。松平伊豆守生涯忘れえぬ友じゃ」しみじみと語る伊豆守の言葉に右門の瞳は濡れていた。
「右門捕物帖」シリーズ(7)