1961(昭和36年)/2/1公開 87分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:12170
配給:東映 製作:東映
尾張名古屋城の次男坊、英遇剛毅な若き日の徳川万五郎宗春が、名古屋城改修の絵図面を追って、徳川隠密団を相手に知恵を振るい剣で暴れる天下御免の痛快時代劇。
八大将軍の座をめぐって、尾州、紀州の両家は烈しく対立し、紀州から吉宗が将軍の座についても、まだ暗斗は続けられていた。尾張の当主徳川継友は、尾張一円を襲った大飢餓に苦しむ領民救済のため、弟万五郎の策を容れ、名古屋城二の曲輪改修使役によって年貢を免じた。領民の感謝は一入だったが、このため尾州家に思わぬ危機が訪れた。畳屋新吉、実は公儀隠密小川東馬は、十年間にわたる尾張の動きと、二の曲輪の絵図面を幕府におくらんとしたのである。無断の城改修は禁制であり、この事が判れば、謀反の兆ありと断罪されるのは必定である。殊に、吉宗とは反目の間柄にある継友にとっては、尾張家存亡を賭した大事である。急拠東馬を襲わせ、これを斬ったが、絵図面は息子の乙女之助、娘お夏の手によって何処かへ運び去られた。事の重大さに焦慮した継友は、江戸表にある万五郎に急使を送り、善後策を講じるよう命じた。尾張藩下屋敷、府内発砲禁止の御禁制も、何処吹く風と、お気に入りの浪人共を集めて、家宝の鉄砲飛竜で、武術鍛錬に余念のない、筋骨隆々たる偉丈夫。これが、豪毅、英邁をもって知られる尾張の次男坊万五郎宗春だ。万五郎の横紙破りな所業を、監視しているのは、幕府隠密の総元締藪田助八と、側用人加納遠江守の二人、そして心配をしているのは許婚の深雪と、忠臣の鬼塚藤太である。急報を受けた万五郎は、些かも動ずることはなく「すべての手はずは整っている」と破顔一笑するのだった。捨子から育て、その敏捷さと、特異な才能を愛する庄蔵少年を国許に送り込み、絵図面がお夏の手で御用船天神丸で運ばれている事を百も承知の万五郎だった。深夜の船着場、黒々とうかぶ天神丸の舷側に、音もなく忍び寄る黒装束の一団、それは尾夏救出に向かった乙女之助ら隠密の一行だったが、万五郎に先手を打たれ敗走した。頑として、絵図面の行方を語らぬお夏は、万五郎を父の仇として刺そうとするが、責めるではなく、一緒に盃を交わす万五郎の茫洋たる態度に、お夏は戸惑いまた深雪は二人の姿に心を痛めるのだった。自由の身になったお夏は、深夜天神丸の積荷を調べているところを万五郎に発見された。絵図面は、尾張縮緬の中に隠されてあったのだ。しかし、千八百反の縮緬は、すでに市中に流れていた。万五郎の指令で、深雪と庄蔵、一方では助八の配下が、市中にバラまかれた尾張縮緬の買占めに狂奔したが、お夏の笄と共に秘められた絵図面は見つからなかった。継友は出府して、吉宗と対面したが、吉宗は世評を引き、万五郎の器量を賞で、狭量な継友を皮肉ったため、継友は心おだやかならず、普請をすすめた万五郎に当りちらすのだった。小唄師匠の文字花は、顔役の伝次から尾張縮緬を貰うが、その中に絵図面を発見し、万五郎に渡す代わりに、自分の恋をかなえさせてくれと難題を持ちかける。一方古金にみをやつしたお夏は、子守娘の持つ笄から、文字花をつきとめたが藤太と先を争って文字花の手を訪ねた時は無残な文字花の死体ばかり、絵図面は伝次に奪われていた。継友は下屋敷で狙撃され、その曲者が万五郎が集めた浪人の一人であり、鉄砲が家宝の飛竜であることを知り、万五郎への怒りを爆発した万五郎は、浪人共が助八の輩下であることを知り、飛竜に仕掛けをして爆発させ、曲者を倒したのだった。千両箱と引き換えに呼び出しをかけた伝次に逢うべく、洲崎の埋立地に出向いた万五郎は、乙女之助らに襲われ、伝次は深傷を負い、絵図面は深雪の手に渡った。だが絵図面を万五郎に渡そうとした深雪は、途中に待ち伏せた助八から父摂津守が、遠江守と結んで、継友を陥れ、尾張乗っ取りを企んでいることを知らされ苦悩する。伯父摂津守の還暦を祝う観能の宴で、弁慶を演じる継友は、突如知盛の縁者に斬りかけられた。間一髪飛来した手裏剣が、知盛の面を割った。面の主は助八だった。「奸臣覚悟」埋立地の小屋で、助八らの火攻めに会って、お夏と共に消息不明だった万五郎が、助八、遠江守を相手に、豪剣を躍らせた。一切を知った吉宗は、不明をわび、絵図面は火中に投じられ、両者の和解が成った。摂津守も深雪の死を悼む万五郎の温情に事なきを得た。深雪の墓前に、そなたは「終生の妻」と語りかける万五郎の後に、はるか名古屋城の金鯱が陽に映えて、美しく照り輝いている……。