1961(昭和36年)/4/18公開 90分 カラー シネマスコープ 映倫番号:12273
配給:東映 製作:東映
時代劇の名物シリーズ、片岡千恵蔵主演のいれずみ判官・遠山の金さんシリーズ第9作。今回は、春の陽気に浮かれて江戸を後に、金さんのユーモアたっぷりな気まぐれ道中を皮切りに、世直し党と呼ばれる不逞浪人の不穏な動きに対して決然と立ち上がる花のお江戸のべらんめえ裁きに興趣を盛った明朗捕物篇。
伊勢路きっての暴れん坊・鬼金が事件を起こし、その身柄を引き取って出たのは、いぶしの銀次という遊び人風の男。実は春の陽気に誘われて、江戸を彷徨い出た遠山の金さん。金さんと鬼金は桑名から浜松へ向かう二十石船に乗り込むと、その船上では講談師が世直し党と称する浪人群の不穏な動きを得意気に語る。この世直し党というのは、世相を攪乱するため、伝馬町を襲い、囚人たちを脱走させたりする不逞浪人の集まりで、その黒幕は西丸老中駒木筑後守と目され、奢侈禁止令を発布した大老水野越前守の政策に対する反対勢力でもあった。だが金さんの関心は、乗合い客の浪人風の男・大塚弦之丞の怪しい挙動にあった。金さんは、江戸っ子スリ素っ飛び小僧の安が、この弦之丞の懐からスリ盗った財布を取り上げ、その中から2個のサイコロに隠されてあった紙切れを見つけ、然りと頷く。江戸に舞い戻った金さんは、江戸一番の料理屋八百松に鬼金と一緒に下男として住み込む。紙切れを世直し党の連絡文だと見破り、その連絡場となっているこの店を通じて、世直し党を内偵することにする金さん。金さんの八百松暮らしは、茶目っ気たっぷりの下男生活を送るものの、世直し党の資金源と目される呉服屋・秋葉屋重兵衛、飾り屋・鶴屋九郎右衛門、吉原の元締・三浦屋喜十郎、劇場主・森田屋茂兵衛等の存在を突き止める。八百松での舟遊びを装い森田屋等悪徳商人たちを、いつぞや捕まえた江戸っ子素っ飛びの安の舟で後を追う。向かった先は、向島にある駒木筑後守の別邸だった。その屋敷に忍び込む金さんたち。その謀事とは、将軍家慶を森田屋の芝居見物に招待した際に暗殺し、水野越前守と遠山左衛門慰景晋にその責任をなすりつけて失脚させ、さらに御隠居の西の丸を将軍に立てて、己の権力の拡張を謀ろうという筑後守や世直し党々首・鵜殿経之介を中心とした森田屋たちの恐るべき陰謀を知る金さん。しかしながら、安が見張りの侍に捕らえられる危機に立つと、闇夜に咲かせる桜吹雪の伊達姿の金さんとして現れる。世直し党の権藤兵六の短筒が火を噴くと、金さんは背後の大川にもんどりうって吸い込まれていく。将軍の上覧を仰ぐ森田屋の舞台。名優・市川団十郎の熱演で、〝伊達騒動〟の絢爛たる幕が切って落とされる。突如、舞台の正面に突き刺さった4本の大槍。騒然たる舞台の花道の迫りから連判状を銜え、印を結んで上がってきたのは仁大弾王役者に扮した金さんの千両姿である。筑後守の大陰謀を前に、伝家の宝刀金さんのいれずみ裁きの一幕。「恐れながら御上覧に供しまするは江戸八百八町大騒動、世直し党の裁きの場にございまする」の安の口上で、析の音が響き渡るのだった。