1961(昭和36年)/4/25公開 89分 カラー シネマスコープ 映倫番号:12333
配給:東映 製作:東映
維新前夜の京洛を舞台に、薩長連合に命を捧げる勤皇の志士半平太をめぐり、祗園芸者の恋、見廻組の兇刃、同志の裏切りなど数々の波瀾が展開。美剣士・橋藏が魅せる激動巨篇。
動乱の幕末、京都に潜入した多くの勤皇の志士たちは、奥平文之進のひきいる見廻組の兇刃につぎつぎと倒れていった。藤岡九十郎を中心とする血気の長州藩士は奥平を同志の仇とつけ狙い、そのチャンスをうかがっていたが、一人月半平太のみは、無益な殺傷をいましめ、桂小五郎と共に薩長連合に努力を傾けていた。そういった半平太の人命を尊重する主義は、復讐の念にもえる藤岡らに容れられず、「犬侍」「腰抜け侍」と面罵する同志さえあった。
或る日、友禅職「千切屋」で桂と密談中の半平太は見廻組におそわれた。「いたずらに血で血を洗うことにあきたらず町人までも殺すとは・・・」朱に染まって倒れている千切屋の家族の姿を前に半平太の怒りにみちた言葉は見廻組の若い隊士早瀬辰馬の心を激しくゆさぶった。桂と共に無事危地を脱した半平太は、祇園“かね庄”ののれんをくぐった。血なまぐさい明けくれの中のほんのひととき、芸妓梅松とのこまやかな心の交流だけが半平太の憩いだった。「月さまにもしもの事がありでもしたら、わたしは死にます」真情のこもった梅松の声音、相手におぼれこみそうな心を半平太は懸命におさえた。同じ頃、となりの“今市”では奥平と芸妓染八が、ひっそりと盃をかわしていた。その染八のふところには半平太の月星の紋でかざられた印籠がしまわれていた。
過日、舞妓歌菊とともに家路につく途中、持病の癪に苦しむ染八を救ったのが半平太だった。りりしく美しいその面影――染八は奥平と半平太の血なまぐさい宿命を思って悲しかった。その夜、藤岡らは“今市”返りの奥平を襲ったがいち早くかけつけた半平太にさまたげられ、ますますそのミゾは深まっていた。
一方、早瀬辰馬は、半平太の言葉に、見廻組の在り方に疑問を抱き苦悩の日々を送っていたが、悩みを一挙に断ち切るため、半平太暗殺を決意した。清水近くの半平太のかくれ家をおそった辰馬は、半平太にかなう筈もなく、かえって捕らわれの身となった。「たとえ月形一人が死んだとて、お主が一人死んだとて時勢は流れるようにしか流れまい。若い生命は大切にするものだ」しみじみと語りかける半平太の言葉に、辰馬は深く深くうなだれた。これを機に辰馬は見廻組を脱退する事になった。だが裏切者という烙印をおされ、以前の仲間兇刃に追い立てられた辰馬は半平太に助けられた。奥平と半平太の宿命の対決。あれほど奥平の暗殺をとどめていた半平太の刃に奥平は遂に倒れた。重傷を負った辰馬は、月形の家に引き取られた。その辰馬と歌菊の間に清らかな恋が生まれはじめていた。各藩の倒幕の気運が高まるにつれ、東北七藩も又こぞって幕府擁立のため結束を固めた。桂小五郎は薩摩連合の実現をいそぎ、国許長州藩の意見をまとめ、薩摩藩西郷吉之助に会談を申し入れたが「時機尚早し」との西郷の意志をうごかすことが出来なかった。国許より桂の手紙を受け取った半平太は、一身を賭して薩摩藩主島津光久公の駕籠に強訴を決行した。「同じ主義に生きる薩摩と長州、今こそ私情を捨てて確執、反目を投げうって提携致す時かと存じます。」熱意あふれる半平太の言葉は、久光公を強くうごかし、難航をきわめた薩長連合の実現に明るい希望の色がみえてきた。時も時、早馬によって知らされた国許の藩論は百八十度回転をみせ、東北七藩と行を共にする方針ときまった。藩論を重視する藤岡らは、ただちに勤皇の志を捨て、見廻組らとの交流をはかった。脱藩して一年、梅松に養われながら、倒幕の熱意にもえつづけてきた半平太にとってはこの報せは余りにも大きな痛手だった。昨日迄の同志と敵味方にわかれ、家路につく半平太に染八が声をかけた。祇園芸妓の意地にかけ、染八は、奥平の仇半平太を討ち、かえす刃で自らも又死のうと悲愴な決意を固めていた。だが、いつしか心の中に想いを寄せはじめた半平太に、染八は刃を向けることができなかった。そればかりか、見廻組の暗殺計画さえ半平太に打明けてしまう弱い女心だった。染八の報せで、危地を脱した半平太は、三条河原で、なつかしい桂小五郎に再会した。半平太の心に大きな痛手をあたえた長州藩の裏切りが実は桂の反対派を欺く流言であり、薩長連合の実現が目前にせまっていることを知った半平太は、桂の手をガッシリとつかんだ。その夜、藤岡から呼び出し状がとどいた。「愚主、在京同志の分裂を深く憂慮す。今宵洛北大乗院にて面談致したし、藤岡九十郎」立ち上がる半平太に梅松と染八がとりすがった。恋仇と憎み合いながら、何故か梅松も染八もお互いの心がいとおしく、悲しく想われてならなかった。大乗院の本道は夜の闇よりも尚黒々と影をひいている。静かに歩み寄った半平太のまわりをぐるぐると取り巻いたのは藤岡ら長州藩士、新撰組、見廻組の面々だった。「計ったな」半平太は刃を抜くと群がる敵の中におどりこんだ。斬る、斬る、斬る。壮絶な立ち廻りが果てしなくつづけられてゆく。「月形ッ、月形ッ」「月形サーン」とおく聞こえる桂、辰馬の呼び声に半平太の刃はいっそうの鋭さをましていった。