1992(平成4年)/7/25公開 107分 カラー ビスタ 映倫番号:113732
配給:東映 製作:朝日新聞社 / テレビ朝日 / 新潮社 / 電通
日本文学史上、あまりにも有名な太宰治の小説をもとに、新たな設定や登場人物を加えた脚色をほどこし、誰もが楽しめる娯楽映画として完成した本作。
音楽監督・テーマソングは小田和正が担当。またヒロイン・ライサ役を声優初挑戦の中森明菜が担当した。
紀元前360年。ギリシアの植民地、シシリー島シラクサの町に、メッシナのイタケ村から、メロスという若者がやってきた。メロスは妹の結婚式に使う儀式用の剣を買うため、市場へと向かった。鍛冶屋から儀式用にも使えると言われて真剣を買ったメロスは、闘鶏場でカリッパスというおやじと知り合った。路地裏で荷物を奪われそうになったメロスは、髭面の男・セリヌンティウス、通称セリネに助けられた。腕のいい、15歳にして王室付親方の地位を得た石工だったが、3年前に父親が死んでから、酒におぼれ、ライサとの関係も冷め切っていた。カリッパスの勧めでセリネが彫ったという王宮の彫刻物を見に行ったメロスは、突然、警備兵に不審な侵入者として捕まってしまった。そして、持っていた剣が真剣だったため、反逆罪の容疑で3日後の日没時に処刑するという通告を受けてしまった。驚いたメロスは、妹の結婚式のため村に返して欲しい、そして3日後には必ずここへ戻ることを必死に嘆願した。そこで、暴君ディオニシウスは何を思ったか、身代わりに立つものがいれば釈放しようと言い出した。牢屋の囚人たちに、身代わりの報酬は無罪放免、しかしメロスが戻らなければ代わりに処刑する、と言うが、囚人たちは無言のままだった。その時セリネが、身代わりを買って出たのだった。2日で戻ると告げ、メロスは必死で馬に鞭をあてた。翌日村に着いたメロスは、村長たちを説得して、その夜には結婚式を済ませてしまった。ディオニシウス王は、傭兵隊長アレキスにメロスを見張る使命を与えた。夜明け前、雷雨の中メロスは村を旅立った。その頃、王妃フリューネは、王には内緒で老将軍ガンダルスにメロスの行く手を邪魔するように命令していた。メロスが渡ろうとした橋が、豪雨と強風の中崩れ落ちていった。イカダで向こう岸に渡ろうと試みるも、上流から流れてきた巨木がメロスのイカダを直撃し、馬ともども急流に飲み込まれてしまった。目を覚ますと、メロスの目に青空が飛び込んできた。下流まで流されたメロスを助けたのはカリッパスとライサであった。二人は気絶したメロスを馬車にのせシラクサへ向かう途中だった。その日の日没までにシラクサに着こうとメロスは馬に鞭をあてたが、他人の力を借りたことをよしとしないアレキスが立ちふさがり、避けようとした馬車は壊れてしまった。日は落ちた。メロスは自分の足で走り始めた。セリネはメロスの帰りを信じ続けた。「人には死より重いものがある。人を裏切ることだ。そしてメロスは命を捨てて約束を守ろうとしている。彼は親友以上だ。」山間の森を抜けたとき、メロスの前にガンダルスの部下達が襲い掛かった。その時、メロスを救ったのはアレキスだった。日が傾き始めた。広場ではセリネを処刑する十字架の準備が進められていた。「信じてくれる奴がいる限り、俺は走り続ける!」ライサとカリッパスがメロスに追いつき、メロスの体を馬に縄で縛り付ける。シラクサの門をくぐり、馬を捨て、メロスは最後の力を振り絞って走った。広場では勝ち誇ったように王の処刑の演説が始まっていた。間に合わなかったと落胆しようとしたメロスは兵士の短剣を抜き取り胸の上に突き立てた。その時、城の塔の先端が夕日を受けて照り映えるのが見えた。まだ、日は沈んでいなかった。広場の群集からセリネの処刑の中止を求める声が湧きあがる。そして、セリネに加えメロスの釈放も許された。セリネとメロス、ふたりの間は友情と信頼という強い絆で結ばれていた。