1960(昭和35年)/1/15公開 79分 カラー シネマスコープ 映倫番号:11570
配給:東映 製作:東映
「姓は丹下、名は左膳!」御存じ隻眼隻手の快剣士が愛刀濡れ燕を振って剣のさばきも鮮やかに大暴れ。大友柳太朗と大川橋蔵の顔合せで見せる痛快無比の時代劇大作。本作では丹下左膳に藩金護送の難事件が転がり込む。
三社祭りだというのに、とんがり長屋の子供たちには晴着もなければご馳走もない。ちょび安さえいてくれたら面白い遊びを考えてくれるのに、彼は大名の子になってしまった。それを知った丹下左膳は、鼓の与吉を連れて道場荒しに出かけた。子供たちを喜ばせようというわけだ。二度まではうまくいったのだが、三度目に伊庭一心斎の道場で、左膳は思わぬ不覚をとった。一心斎は病気、師範代の根来一角、鏑木又五郎も留守とあって、左膳の相手をしたのは一心斎の娘・萩乃だった。一目見るなり、左膳は美しい萩乃に参ってしまったのだ。ほうほうの態で長屋に戻ると、相馬藩江戸留守居役・鹿島外記が待っていた。
相馬藩では百姓一揆の不始末があり藩の改易を恐れた重臣一派がもみ消しのため密かに老中へ多額のワイロを贈ることに決めた。その金を領内の民百姓に与えれば、百姓も一揆などを起さずにすむ。これが相馬藩を救う道だと考えた外記は武術指南役・天野傅八郎以下軽輩の若侍と計り、途中でこれを奪還しようと決心したのだ。
「相馬藩のためなんぞまっぴら御免だが、銭のためなら、今のお話に乗らんもんでもござりませぬぞ」とヤクザな□をきく左膳だった。
一方、重臣一派の相馬主膳は、外記一派の動きを察し、藩金江戸送りの護衛に根来、鏑木などを動員し、万全を期していた。しかし、このニ人は相馬藩の裏をかき、機を窺って金を己れのものにしようという魂胆だった。その悪計を盗み聞きしていたのが、一心斎の下男・源助である。
銭のために助力を約した左膳は与吉を連れてこっそりと長屋をたったが、その後を追ったのが左膳に惚れぬいているお藤だ。またちょび安は、若殿暮しにイヤ気がさして長屋に戻ったが、留守と知って長屋の子供たちと左膳を追う。と同時に、これまた弟子の悪計を知った一心斎は、萩乃と源助に命じて野盗に等しい所業を中止させるため根来、鏑木を追わせる。
水戸街道を江戸へ、江戸へと藩金護送の行列は行く。それを狙って、天野傅八郎一派、左膳、さらに相馬藩の内紛を探る大岡越前守の腹心、蒲生泰軒、池田大助、そればかりではない、ちょび安たち子供の一隊、萩乃、源助、更に豊臣家残党の糸路姫を首領とする野伏の一隊などが入り乱れる。だが、護送金の一隊の後から、のろのろと牛車が江戸へ向っているのには誰も目を止めなかった。それには大きな石燈篭がニつ乗せられていた。
左膳は愛刀濡れ燕で傅八郎一味を斬り捨てて稼いでいた。萩乃、源助も渦中に巻きこまれたが左膳と源助は奇妙にウマが合うのだった。傅八郎一味に捕われた萩乃を奪い返した左膳は失神した萩乃を炭焼小屋に運び込むが、それをじっと外からうかがっていたのが源助だった。源助は知っていた、左膳が萩乃を深く愛しているのを。だが気付いた萩乃の絶叫に左膳は淋しく去っていった。萩乃は柳生新陰流を使う源助を愛し始めていたのだ。
相馬領よりも副将軍水戸家の領土で事を起こすほうが勝負は早い。つまり騒動勃発は当然水戸家の御詮議となる。と知った襲撃隊は竜神山の麓で護送の一行と対峙したが、その時山頂に姿をみせたのは鎧姿の糸路姫が指揮する野伏の一隊であった。だが、既にこのことを察した多数の水戸藩御目付衆が、その動きをじっと見つめていたのだ。三すくみの態で対立する大人共から離れて、野草を喰む荷駄馬に近づいたのはちょび安たちだ。人参で釣りながら御目付衆のほうへ歩いてゆく。
それをみて痛快に笑ったのは蒲生泰軒だった。とんがり長屋にちょび安も左膳も帰ってきた。荷駄の中は大判小判でなくただの石ころであった。左膳は口惜しがったが後の祭り。一方、相馬下屋敷の庭には石燈篭を積んだ荷車が着いた。「こうするんでござんしょう」といいながら、一人の牛方が鎌で燈篭の中央をえぐった。中から小判がざらざらと流れ落ちた。「貴方様は源之助様!」源助とは仮の名、実は相馬藩の世嗣源之助であった。お藤の知らせで左膳もかけつけて大乱闘、遂に主膳派は倒された。
その頃、左膳の嘆いた石ころには、金が含まれていることがわかった。蒲生泰軒の計らいで糸路姫の一隊も相馬藩に引きとられた。相馬藩にもとんがり長屋にも春が来たようだ。
「丹下左膳」シリーズ(6)