1960(昭和35年)/4/12公開 88分 カラー シネマスコープ 映倫番号:11665
配給:東映 製作:東映
この作品は、お馴染み世話狂言の名場面を、若山富三郎、近衛十四朗、伏見扇太郎、丘さとみの豪華キャストによって描く興趣大作である。内容は、男伊達幡随院長兵衛と水野十郎左衛門の宿敵の葛藤。そして権八、小紫の哀婉切々たる恋模様を花の大江戸を舞台に描く絢爛篇で、キャストは前記若山(長兵衛)、近衛(水野)、伏見(権八)、丘(小紫)の異色顔合わせの他、青山京子、日高澄子、喜多川千鶴、藤田佳子の女優人、山村聰、原健策、宇佐美淳也、星十郎、沢村宗之介っらベテランを配した豪華キャストを組んでいる。
三代将軍家光の治世下、三河以来将軍家の股肱として艱難を共にしてきた旗本も、徳川三百年の礎もようやく定まった当時、徳川家にとってむしろ獅子身中の虫とも云える存在になりつゝあった。
旗本白柄組も、この徳川の圧政が生んだ所産とも云えたが、何時か無頼の徒と化し江戸民衆のひんしゅくを買っていた。たゞ、その頭領水野十郎左衛門は、他の連中と違って、眞に旗本の将来について疑惑を持つ一人だった。それ故に、自分を慕う友人加納伊織の妹信乃の愛をかたくなにはねのける水野でもあった。
この白柄組に対抗して生れたのが花川戸の男伊達幡随院長兵衛を頭領とする町奴の幡随院一家だ。
龍虎並び立たずのたとえ通り、白柄組と幡随院一家は事毎にいがみ合い、激しく対立した。
今日も今日とて、満員の市村座に於いて水野をのぞく白柄組の面々が横車を押し通そうとしたことから、幡随院一家のピンゾロの三吉と称する小僧が飛び出し、危うく血の雨が降ろうとするが、長兵衛は見事なさばきで事を収め男をあげた。
このピンゾロの三吉とは、幡随院一家にあこがれる塩問屋阿波屋の大番頭の息子だったのだ。その阿波里佳、江戸の塩問屋は、時の勘定奉行松坂、老中戸田と組む相模屋によってのれんを下す寸前に追い込まれていた。そして相模屋は、この塩一手販売を達成するため、頭領水野の知らぬ間に、白柄組に金をまき後立てとしていたのだ。
或る日三吉は、またもや白柄組につかまり痛めつけられるが、この三吉を救ったのは同じ長屋に住む浪人白井権八だった。権八と三吉の姉お藤は互いに慕い合う仲だったが、権八はもと讃岐藩士で、父の仇である江戸留守居役大月弥左衛門を狙う身の上だったのだ。
この権八の身上を知った長兵衛は、自分の家に権八を預って力添えを申し出た。ときに、長兵衛と水野が対決する機会が訪れた。江戸城工事場で石の下敷になりかけた人足を助けようとその石を支え身動きとれない長兵衛と、将軍行列の先達として来かゝった水野との最初の出合いである。水野は槍をつきつけてもビクともしない長兵衛に、むしろ人命の尊さを教えられ、眞の男伊達と見抜きながらも、何時かはこの長兵衛と命を賭けた対決をしなければならないことを知った。
折しも、塩の一手取りあつかいを狙う相模屋は、勘定奉行松坂、老中戸田らと計って最後までこれに反対する阿波屋の塩倉に放火して、阿波屋をつぶそうとした。阿波屋の大番頭惣兵衛は店を再興しようと頑張ったが、その資金集めに困っているのを見た娘のお藤は、自から吉原三浦里に身を売って三百両の金を用立てたのだった。
そのお藤が小紫と名乗り、おひろめ道中の最中、無休をしかける白柄組と幡随院一家の衝突から水野と長兵衛は再び相見得る。この折、水野は長兵衛の口から白柄組が相模屋の手先になり下っていることを知らされ、両者は花魁薄雪の仲裁で別れた。
その頃、お藤が用立てた金によって仕立てた阿波屋の最後の塩船が、途中沈んだとの急報がとゞいた。
これは、相模屋が松坂、戸田らと組み、船頭の喜市を買収して仕組んだものだったのだ。
塩船の沈没に不審を抱いた惣兵衛は、長兵衛の協力を仰いで調べた結果、船頭の喜市が生存していることを知ったが、かけつけたときには厩に喜市は一味によって斬られた後だった。
だが長兵衛はこの喜市の死の寸前の言葉から一味の中に権八の仇大月が居ることを知り権八に知らせる。
権八はただちに讃岐藩江戸屋敷に駈けつけたが、その頃大月は既に、水野の家にかくまわれていたのだ。老中戸田は、この大月を囮にして白柄組と町奴との対立を激化させ両者を共に滅ぼそうと狙っていたのだ。長兵衛は、単身水野の屋敷を訪れ大月の引き渡しを申し出た。だが、当の水野は白柄組の他の連中が大月を屋敷に引き入れたのを知らなかったのだ。長兵衛のロからこのことを知った水野は、他の話にことよせて秘そかに大月が屋散を出る時を知らせた。
権八はこの長兵衛の知らせによって、大月を待ちうけ、遂に父の仇を討った。だが収まらないのは他の白枡組の連中だ。長兵衛の家に斬り込みをかけるといきり立つが、今はこれまでと心をきめた水野は、自からの手で長兵衛を斬ろうと決意、長兵衛に書状を送って自宅に呼びよせるのだった。
長兵衛は、自分を斬ろうとする水野の心を読み、権八と小紫の二人を添わし、命を捨てる覚悟で単身水野の屋敷に向うのだった。