1960(昭和35年)/5/10公開 88分 カラー シネマスコープ 映倫番号:11704
配給:東映 製作:東映
空と海の間に仕組まれた巧妙な麻薬ルートをつき、若き海上保安宿が、男の正義と友情を涯てしなき大空の魅力の中に爆発させる痛快アクションドラマ。怪飛行機の墜落事件にからまる麻薬密輸ルートを確めようと、単身島へ渡り、南邦航空に潜り込む海上保安宿佐竹吾郎に高倉健、行方不明になった南邦航空のパイロットである兄の消息を訪ね、吾郎と機を同じくして島へ渡る美奈子に佐久間良子、謎の影を落す南邦航空の社長大場に岡田英次、命を賭けて大場を愛し抜く男勝りの女パイロットかおるに小宮光江、パイロットの島村に今井俊二など豪華キャストが競演。
一見平穏に見える大空に、最近国籍不明の怪飛行機が相次いで墜落するという惨事が起きていた。吾郎は、連絡船の手すりにもたれ、目にしみるような青空を見上げた。―ーとその時、風に飛ばされた赤いスカーフが、吾郎の手に絡みついた。スカーフの持ち主は美奈子という女性。吾郎は、連絡船に不似合な美しい美奈子の姿に一瞬眼を見張った。連結船は、小さな島のさびれた漁港に横付けされた。吾郎は、この島にある南邦航空から中古飛行機を安く買い入れて魚群探索をやろうと遥々北海道からやって来たのだ。だが吾郎のその計画は、たちまちくずされてしまった。ブローカーの青木に内金を持ち逃げされてしまったのだ。怒った吾郎は、南邦航空にねじ込んだが、当人がいない事には決着をつけようもなく、といって手ぶらで北海道へも帰れない。吾郎は、社長・大場のすすめもあり、南邦航空に腰を落ち着ける事となった。頬から顎にかけた大きな傷痕にニヒルな笑いを浮べ愛頑用の猫を片時も離さない大場、大場にまとわりつく男勝りの女パイロットかおる。吾郎は、南邦航空に不穏な空気を感じた。吾郎は、宿で連絡船の女・美奈子と再び顔を合せた。美奈子の兄・都築は南邦航空のパイロットであったが、一ヶ月前から行方不明になっており、消息を確めようと島へ渡って来たのだという。
水平線に美しい太陽が昇り、澄み切った朝の空気を震わせて二機のセスナ機が大空に舞い上った。大場と吾郎が操縦する二機だ。吾郎の腕をテストしようと秘術をつくす大場機に、吾郎は、ピッタリと食い下って離れない。見事な吾郎の腕前だ。大場は、内心度胆を抜かれた。一汗かいてセスナ機から降りた大場は、都築の妹・美奈子が島へ来ていることを耳にし、不気味な眼を光らせた。美奈子の美貌は大場の欲望をあおった。彼は、時あらばと、美奈子の身辺を窺った。
蛇のような彼は、遂に美奈子の部屋の鍵を手に入れ、彼女を手込めにしようと迫った。これを知った吾郎は、敢然美奈子を庇って大場に挑んだ。男の肉弾が激しく相打つ。その瞬間、轟然一発、二人の間に銛が打ち込まれた。鈷銃を構え、大場を必死に庇うかおる。命を賭けて男を愛し抜く凄まじい女の気魄を吾郎はまざまざと感じた。
元漁師の大場は、島村と一緒に魚群探索の目的で南邦航空を起したが、業績は思わしくなく、最近は何か違う仕事に手を染めている様子である。しばしば大場を訪ねる陳という第三国人との間で秘密の取引が交されるらしい。今夜もまた陳との仕事の為にニ機が島を飛び立った。ところがこの夜更け、島へ戻ってきたのは大場だけで島村の機は再びその姿を現わさなかった。更にまた続く夜更け、今度は吾郎が大場に誘われ、共に島を飛び立った。大場は頑として目的を吾郎に打ち明けなかったが吾郎はそこに南邦航空の隠された謎があると直感した。だが、目的地を前にして大場機がエンジン不調で墜落。吾郎は海中から大場を縄で吊り上げるという命がけの芸当をやってのけ危機を救った。数日後、大場と吾郎の二機は再度島を飛び立った。その時吾郎は何故か美奈子に一通の手紙を託していた。だが運悪く手紙は陳に奪われてしまう。更に手紙の受取人である青木もまた陳一味に竝致されていた。
海上には貨物船が一隻停泊している。大場と吾郎のセスナ機は目標に向って高度を下げた。大場の目的は、貨物船から木箱を釣り上げる事なのだ。サーカスまがいの芸当が海と空の間にくり返される。吾郎は、見事箱を釣り上げた。箱の中味は麻薬だ!大場と陳の間には巧妙な麻薬の取引きが行われていたのだ。消息を絶った都築も島村もこの危険な作業の犠牲となったのだ。吾郎の手が無電機のスイッチに伸びた。島へ帰りついた吾郎を、陳一味の銃口が冷たく包囲した。陳は、吾郎の無電を傍受し、吾郎の正体をあばいていたのだ。吾郎は保安官なのである。南邦航空の行動に不審を抱いた海上保安官・佐竹吾郎は、同僚の青木と組んで大芝居を打って、この島へ潜り込んでいたのである。この時、突然大場の拳銃が、陳一味に向って火を吐いた。「借りは返したぜ」大場は、吾郎に海中から助けられた返礼をしたのである。大場の胸中には吾郎に対する烈々たる男の友情が燃えていたのだ。危機を脱した吾郎は、美奈子と青木を助け出した。陳を裏切った大場は、逃亡を計り、札束を抱えこんでセスナ機へ飛びのった。だが執拗な陳の凶弾が脇腹を射抜いた。機内にはかおるが待っていた。セスナ機は、大場とかおるを乗せて舞い上った。眼下に広がる青い海原の中に大場は素晴らしい魚群を発見した。大場は、激痛に堪えながら、無電機にかじりついた,漁師という彼の生立ちが漁師たちへ吉報を伝えたがったのだ。吾郎を乗せた哨戒機は、この無電を傍受してセスナ機の位置を発見、その後を急追した。だがこの時既に大場機は、紅蓮の炎に包まれ落ちていった,絶命した大場を抱いたかおるが、自らの機に火を放ったのだ。水平線に朝陽が輝いた。数十隻の漁船が掛け声も勇ましく網を曳いている。限りない大漁だ。大場が最後に打った無電がこの素晴らしい風景を作ったのだ。いい奴だった。吾郎は、大場の豪快な面影をしのんでそうつぶやく。機影が流れるように海上をすべっていった。