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色男で金と力があり余るというお人好し獏太郎が、泣く子も黙る地獄道場のごろつきどもをやっつけたのだから江戸中の評判になるのは当たり前。獏太郎の宿の前には、連日、うら若い獏太郎ファンの乙女たちが押しかけて行列を作るあり様だ。これに目をつけたのが、金井伴五郎など御家人くずれの四人組、獏太郎の故郷である麻生の新庄藩家中の者と偽って、獏太郎をとある料亭に引っ張り出したが、さすが獏太郎、直ぐに偽者と見破って大立ち廻り、見事に四人組を叩きのめした。これを見て喜んだのがお島の乾分の銀太、早速獏太郎を引っ張って吉原に繰り出した、腹の虫のおさまらないのがお島で、朝帰りの獏太郎を見るやヒステリーを起こして家出してしまった。
一方、散々恥をかかされた四人組は、お島を誘拐して五百両の身代金を請求して来たが、獏太郎は平然たるもの、五百両で命が助かれば安いものだと、早速五百両をととのえると、四人組に指定された一本松の下にノコノコ出掛けていった。
一方、居酒屋樽吉の一人娘･お千賀は、酔っぱらった四人組の口からこれを聞いて役所に注進、同心の三田村は銀太の大活躍によってお島の居所を突き止めると無事救出に成功した。そんなことは露知らぬ獏太郎は、金井ら四人組に金を渡そうとしたが、駈けつけたお千賀の報告であざむかれたことを知り、烈火の如く怒って大暴れ、見る間にごろつき四人組を叩き伏せた。三田村に連れられてお島も無事に獏太郎の胸に帰った。だが、この時、銀太に案内されて一人の老人が息せき切って走って来た。獏太郎の父の獏左衛門で、獏太郎と同じく色事修行のために江戸に出てきたという風流老人だ。一難去ってまた一難、すっかり驚いた獏太郎はお島の手をとると一目散に逃げ出したが、獏左衛門も負けじと杖を振り振り後を追う。明るい月がこの風流親子を桃色に照らしていた。