1960(昭和35年)/10/30公開 99分 カラー シネマスコープ 映倫番号:11984
配給:東映 製作:東映
肉親である叔父に父を謀殺され、母をも奪われた青年の苦しみと復讐。さらに圧政に抵抗する農民の姿を激動のタッチで描破した人間ドラマ。
今から約四百年の昔、瀬戸内海沿岸にひときわ偉容を誇る一城があった。その名は王見城。城内では明国から新しい知識を持ち帰る若者・王見正人の噂でもちきりだ。しかし、正人の帰国を不安の目で迎える者があった。正人の明国留学中に父・勝正を謀殺し城主の位を奪った正人の叔父・師景とその腹心の六角直之進、さらに、今では師景の妻となっている正人の母・時子であった。
物集港に勘合船が到着し、出迎えの多治見庄助から留守中の王位にまつわる噂を聞いてその真相を探り出そうと決心した正人は、まず先君に殉死した忠臣の墓を訪ねて霊を慰めると共に、隣国を侵略せんと野望に燃える新城主・師景のために重税に苦しみ、一揆寸前にまで追い込まれた百姓たちから、師景の暴政の数々を耳にすると狂気を装って帰城した。正人狂気の報は、正人による善政を期待する城民や家臣を失望させ、師景の不安をより現実的に深めたが、正人を愛し、末を契る雪野の目を欺くことは出来なかった。愛するものの直感…正人の苦悩は激しく胸をえぐった。正人は、ある夜、父・勝正の血にまみれた亡霊を見る。いよいよ疑惑を深めた正人は一計を案じ、ある日、猿楽の一座を城内に招くと師景と時子に天皇を刺し殺した后サホビメの古事記の一節を見せた。悲鳴を上げて逃げまどう時子、そして激怒した師景も席を立った。証拠を見て取った正人は、復讐の機会を伺ううち、誤って雪野の父・直之進を刺してしまった。城の追っ手のため、庄助は殺され、正人は小船を駆って嵐の海に逃れ、七つの海を暴れまわる海賊船に救われる。この海賊の中に王見城下の百姓の出の陀七という男がおり、正人とは知らない彼の言葉から圧政に苦しむ領民の真の姿を正人は知った。領民の復讐と平和を好んだ前城主の世継ぎとしての復讐、この二つが正人の心の中で一つに燃え上がった。やがて城下に戻って来た正人は、直之進の墓の前で雪野に出会ったが、全てを許して正人の胸に頬をうめる雪野を、正人は邪慳に突き離さねばならなかった。復讐のために雪野は死んだ。白い波の彼方に身を沈めたのだ。正人突然の帰城に、師景は奸智をめぐらし、雪野の兄・祐吾と正人の決闘を計った。祐吾は師景の政策に盲従する単純な行動型の男だったのだ。父・直之進を殺され、いままた雪野を失った祐吾は怒髪の剣を抜いて正人に対した。正人を容易ならぬ使い手と知る師景は、水瓶に毒薬を入れ、祐吾の剣にも毒を塗り、あまつさえ弓隊まで準備するが、水瓶の毒薬は正人の慧眼に見抜かれ、凄絶な立回りの最中に祐吾の毒剣は正人の手に握られていた。祐吾は毒剣のため血を吐いて倒れ、弓隊は正人をかばう時子の胸を誤って射抜いてしまった。その時、かつての重臣の忘れ形見・相楽宗恵、甚兵衛を先頭にして農民一揆の大群が城内に雪崩れ込んだ。一揆の群れが投げる松明、火矢によって、城は炎上、正人は師景を追って炎の中を天守閣に進み、復讐の剣を振るって師景を倒した。紅蓮の炎が地を這い、城は焼け落ちた。悪夢のような一夜が過ぎ、相恵と甚兵衛に助けられた手傷の正人のもとに戸板に乗せられた雪野が運ばれて来た。固く閉ざされた目は、もう正人を見ず、白く乾いた唇も二度と正人に微笑みかけることはない。正人は雪野の清らかな亡骸をしっかりと抱き、その冷え切った頬に慟哭の涙を流すのだった。