1961(昭和36年)/2/7公開 85分 カラー シネマスコープ 映倫番号:12184
配給:東映 製作:東映
情緒たっぷりな大江戸を背景に大名火消しと町火消しの対立、その陰で泣く女心。悪の非道に立ち向かう江戸っ子火消しを描いた痛快巨篇。
今日もまた江戸の空に一番?をかかげた加賀鳶は、引き揚げの途中、火消し稼業の因果では組の一行と鼻の先を争い大乱斗となったが、奉行所の出馬で事無きを得た。加賀鳶の小頭吉五郎は、度胸と美貌で華やかに売り出していたが、中でも芸者衆にめっぽう人気が良い。喧嘩、もめ事仲裁で呑み代を稼ぐ貧乏御家人の中原扇十郎を兄に持つ小いなも、吉五郎にぞっこん惚れ抜いている一人だ。その吉五郎が、夜店見物の途中、権力を笠にきる旗本向井佐太夫に凌われた娘を助け出し、家まで送り届けたものの、は組の?持ち次郎吉の妹おもんだと知って複雑な表情となる。次郎吉とてもまた同じことだ。親父とそのまた親父の代からの、は組と加賀鳶との間柄を、身を以って知りつくしている二人だったが、おもんを伴い菓子折り下げて現れた次郎吉と、素直に受け取る吉五郎の胸と胸に、いつか温かいものが通っていたようだ。おもんもまた、組の意識を越えた吉五郎のさっぱりした態度にひかれ、再び一人で吉五郎の家を訪ねる折、おもんを奪い返され、血の逆流した向井が、旗本組の意地にかけて面目を保とうと、吉五郎に呼び出しをかけて来た。おもんに迷惑がかかってはと、単身向井の屋敷におもむいた吉五郎は、向井の罵倒をサラリと聞き捨て、頭を下げてその理不尽を強く諭すが、相手がものの分る男ではない。と、双肌ぬいだ吉五郎が鯉を跨いだ金太郎のいれずみを背中におどらせ、すかさず飛ばす鉄火の啖呵。「身分はどうでも、加賀百万石のお抱え火消しだ。それを承知で斬るっていうのか」だが数刻後、その吉五郎が方にも背にも痛ましい鞭の跡を残して帰ってきた。涙ながらにそれを介抱するおもん。時に聞こえる半鐘の音、苦痛をこらえて吉五郎は立ち上がり火事装束も慌しく、は組のおもんの切火を受けて、苦痛をこらえ鳶口片手に表へ飛び出す。
火事現場は御門前、一番?はは組の次郎吉が振りかざした。その足許に巻き起こる火?を消そうと竜吐水の筒先をにぎるのは加賀鳶の吉五郎だった。?を振った次郎吉にしてみれば、よその竜吐水のお蔭を蒙ったことはは組の恥、火消しの意地がある。吉五郎に切火を打って、は組の魂にケチをつけた妹おもんを厳しく責めれば、「あの人は、は組とか加賀とかにこだわるケチな人じゃありません」と、おもんはきっぱりと云いきって家を飛び出し、吉五郎を尋ねたものの、何故か愛しいひとにも閉め出され、揚句には、向井の仲間に凌われようとして、扇十郎に救われた。
おもんはこの日始めて小いなを知った。「お前さん、吉っさんが好きになったんだね」ときり出した小いなの胸中もまた苦しい。加賀とは組の対立は、市村座の初日に爆発した。両者それぞれ音羽屋に引き幕を贈ったことから、観客席は完全に二分されて、血の雨が降る形勢となり、事の成り行きで、吉五郎と次郎吉も殺気をはらんで対決したが、顔役石町の勘五郎の仲裁で事がおさまる。一度は解決ついたものの手締めの席で、おもんをネタに、は組の金太から執拗にからまれた吉五郎は、おもんと乳くりあう「泥棒猫」と呼び捨てられて、顔色を変えてその場を出ていく。残った席で吉五郎をかばって立ったのは、は組の次郎吉だ。「妹のおもんに、兄妹の縁をきらしたのは、このあっしからでござんす。妹はただの女だ。惚れた男位に逢わしてやるのが気に入らねえなら、俺は?を返さなくちゃならねえ」
一方、一人になった吉五郎の胸中は空虚だった。「俺は火消しを男の商売、男の誇りと思い込んでいたが、その義理や附合いがバカバカしくなってきた」同じこと、旗本の酒席で、健気にも小いなが向井に啖呵をきっていた。「おもんさんを世話しろですって、深川の小いなはまだ女衒をやって居りません」そのまま向井の一刀を浴びて倒れたところへ事情を知った吉五郎が飛び込んできた。「気違え侍共、やりあがったなッ」奮然と一味に立ち向かおうとした時、彼方で半鐘の音がする・・・一度は鳶を捨てたつもりの吉五郎も瀕死の小いなにせかされて「小いな見てくれるかッ」と表へ飛び出す。各組ひしめく現場は大混乱、物凄い火勢に押されて後退する火消したちの中から、加賀の?をしっかり握った吉五郎が、黒煙と猛火の中に飛び込んで屋根高くよじ登り、天にもとどけよと振りかざす。「火消し仁義を知っている者ァ、町も屋敷もねぇ筈だ。吉五郎を殺すなッ」は組の次郎吉の一声では組の鳶がどっと続く。「姐さん、ほら吉五郎さんが?を振ってる。見えるかい・・・・・・」遠くの料亭の二階座敷から、小いなを抱いて叫びつづけるおもん・・・・・。