1961(昭和36年)/4/9公開 86分 カラー シネマスコープ 映倫番号:12198
配給:東映 製作:東映
第二東映が傘下の時代劇スターを総動員して製作する幕末スペクタクル篇。日本の激動期幕末を背景に、主義に命を賭けた群像の哀歓をダイナミックなタッチで浮き彫りにする興趣篇である。直居欣哉のオリジナル・シナリオ。
日本の激動期幕末。勤王派と佐幕派の対立で、血なまぐさい乱斗に明けくれる京洛に、鞍馬八天狗と呼ばれる勤王派の新しい勢力の芽生えがあった。徳川幕府の威光を笠に、強力な弾圧運動を展開する新選組を相手に、一糸乱れぬ統制力で神出鬼没の活躍を示す奇襲隊である。
土佐藩にその人あり、と知られた武市半平太を頭とする、文武兼備の俊英 伊波大二郎、居合い抜きの名人で、人斬り以蔵こと岡田以蔵、紅顔の青年剣士高松市之丞以下、那須信吾、池内蔵太、安岡喜助、大石弥太郎たちの面々だ。
機熟す、と見た勤王派は、三条実美公、三条西季知公などの主脳七公卿を洛西妙心寺に招集して、討幕の密議をこらしたが、この情報を探知した新選組が、妙心寺に斬り込んだ、という報告に、半平太の号令一下、砂塵をまいて救援に赴むく八天狗である。
事態は意外な成り行きを見せていた。七公卿は、偽鞍馬八天狗の手で、一足先にいずれかへ連れ去られていたのだ。半平太に七公卿探索を命ぜられ、大二郎は紀州浪人 伊庭三四郎と変名して新選組入隊志願者の群れに身を投じる。新選組入隊試合で、隊内切っての剣客 沖田総司を叩き伏せた大二郎に、隊長 近藤勇の目がキラリと光る。勇に腕前を見込まれて、新選組入隊をとげた大二郎には、幕府大目付 小笠原帯刀の警護役という新しい任務が待ち受けていた。半平太の愛人、祇園の芸妓染松の活躍で、今橋鞍馬八天狗事件の黒幕が、帯刀という情報を得た八天狗の面々は、帯刀の駕龍を襲って替え玉の用人、佐橋伝右衛門を討ちとった。新しい勤務と勤王の密偵という重荷にも負けず、大活躍をする大二郎の前に、幸か不幸か、新しい運命が訪れる。
父を失った傷心の身を、小笠原邸に寄せていた伝右衛門の娘 深雪との恋である。勤王派と佐幕派という相容れない立場を背景にした大二郎と深雪の恋は、大二郎を愛していた新選組の女諜者お駒の嫉妬を呼び、逆上したお駒は大二郎の正体を新選組に密告する。新選組屯所の牢で厳しい拷問にたえる大二郎の無残な姿に、お駒は前非を悔い、八天狗の面々に急を告げた。お駒と、スリ上がりの勤王やくざ鞍馬の三次の活躍で、大二郎は無事救出された。
八天狗の本拠地、洛北鞍馬寺。大二郎が牢内で小耳にはさんだ、七公卿の処刑計画の詳細に耳を傾ける八天狗の顔に、激しい怒りと決意の色が流れた。そんななかに、一人半平太だけは、あまりにも容易に実現した大二郎救出の前後の模様から、これは勅令王派をおびき寄せるための、新選組の計略だと喝破するのだったが。
七公卿処刑の場所に指定された、当日の洛東東福寺境内。吹きすさぶ乱斗の嵐は、罠を仕掛けて待ち構えていた新選組の精鋭と、七公卿救出に馳けつけた、三条実美公の娘万里姫を護る長州浪人柱小五郎の一行と八天狗たちとの死斗である。新選組の計略だと感知しながらも、もしかという淡い希望に全てを託した勤王派の壮拳であった。死斗の嵐は、万里姫をかばった以蔵と高松の命を奪ってすぎ去った。万里姫を知り、その清純さに恋を知った人斬り以蔵と、勤王攘夷の旗印に青春の喜びを賭けた高松の、それはあまりにもはかない人生の幕切れであった。
鞍馬寺の本堂で、ただ一人、亡き友の面影をしのんで故郷の歌″よさこい節″を口ずさむ大二郎の心に去来するものは、無カな自分をとりまく激しい世相の嵐と恋しい雪の面影である。勤王攘夷の旗印のもと、武市半平太の号令に、今日も鞍馬八天狗の勇姿が、京洛狭しと馳けめぐる。新しい日本の夜明けも間近である。