1960(昭和35年)/3/8公開 60分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:11605
配給:東映 製作:東映
大江戸八百八丁に渦巻く般若の面殺人事件を、手慣れた十手さばきをもって次々と解明するお玉ケ池の名目明し人形佐七の大活躍を山崎大助監督のメガホンで描く娯楽推理時代劇。若山富三郎が主演する初のシリーズ作品。
江戸は市村座で晴れの襲名披露興行を持ち、華やかな初日の幕を開けようとした役者・泉屋文之助は、何者かの大芝居で興行をめちゃめちゃにされたのを機に、妹・お京を楽屋に残していずこともなく失踪した。
奈落で首を吊った頭取・弥左衛門の姿を見上げたのはお玉ケ池の名目明し、御存知人形佐七の親分とおっちょこっちょいであわてん坊、腰巾着の辰五郎である。
それから間もなく、とんでもない怪事件が持ち上った。
羽振りを利かす両国の札差し・茨木屋鵬斉が、酒宴の席で取り巻きの画工妥女、落語家扇馬、幇間鳶平、俳諧師蝶雨、芸者お駒ら、茨木屋六歌仙の名を記した画師国貞の筆になる六枚の般若の絵を六本の筒に入れて鳩につけて放ち、七日目に絵を持ち帰った者に賞金をやるという風流大趣向で江戸中の人気を呼んだのだが、六歌仙の一人、鳶平の惨殺によって連続殺人の幕が開いたのである。しかもその死顔には般若の面が…。そして、佐七の目星もつかぬ間に続いて妥女が殺された。
事件の鍵は、文之助の妹・お京が握っていると感づいた佐七の眼には狂いはなかった。今から数年前、文之助の父も茨木屋一派に江戸興行を妨害されて頓死しており、文之助と父の弟子・半五郎の二人が復讐を誓い姿を消したのではと疑惑を抱いたのである。
ほどなくお京の知らせも間にあわず扇馬が惨殺され、さらには蝶雨が惨死…。一夜、月下の向島で、般若の面をつけた殺人鬼と対決する佐七だが、面の下の顔は意外にも半五郎だった。
「此の俺が般若の絵の下手人だ」「やめな、俺はお前を殺しの下手人だなんて思っちゃいねえよ」
佐七の慧眼は既に真犯人を見抜いている様だ。だが、お京懸命の奔走も空しく、般若の面はお駒の命も奪い取って行き、残るは茨木屋鵬ただ一人。
今宵は期限の七日目。残る一枚の絵を屋形船で待つ鵬斉。その後に立った船頭の顔に、般若の面が…。悲鳴をあげて船から岸へ上ろうとする鵬斉の前にもう一人般若の面が立っていた。アッと立ちすくむ鵬斉の脇腹に「親父の仇だ、覚悟しゃがれ!」と船頭、実は文之助の脇差が深々と突き剌った。呆然と立ち尽くす文之助はやがて面をとると「半五郎、有難うよ。これで俺は思い残す事はねえ。お前は親父が許したお京の許婚だ。早くどこかへずらかって…」と言いかけて驚く文之助。面の下には佐七の顔が温かく笑っていた。
夜明けの江戸の町並を歩く佐七、辰、お照の三人。「どうも判らねえ。空に飛んだ六羽の鳩の…」「なあに、始めっから鳩の脚の筒には絵が入っちゃいなかったのさ。鳶平の奴が五百両に欲を出して、入れると見せかけて自分の袂にでも入れたんだろう。それを船頭に化けていた文之助が見逃すわけがねえ。鳶平を殺せば絵が全部手に入るんだ。その絵を利用して文之助は親父の怨みを一人一人晴らしていったんだよ。」
その頃、お京と半五郎は、自害した文之助の遺品を抱いて、淋しく江戸を去って行った。