1960(昭和35年)/3/22公開 58分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:11606
配給:東映 製作:東映
若山富三郎主演の捕物シリーズ第二作。大江戸八百八丁に渦巻く蝠蝸組怪事件を、手慣れた十手さばきをもって解明するお玉ケ池の名目明かし人形佐七の大活躍を描く。
鋭い弦月の夜、黒猫が不気味に鳴き続ける暗闇坂の荒屋敷で、江戸評判の女芸人・松花斉天菊が何者かの手によって無惨に殺害された。死体の転がる荒屋敷の門には血潮で描かれたコウモリの絵が…。
此の天菊殺人事件に颯爽と登場したのは、美男で、気っぷがよくて、その上十手さばきもあざやかな名目明し人形佐七とその一の乾分辰五郎。そしてその二人に何かと因縁をつけて邪魔だてするのは、漆原左文次を首領とする今評判の泣く子もだまる蝙蝠組の一団である。殺人現場の不気味なコウモリの絵と捜査妨害に懸命な蝙蝠組。そのつながりには確かに犯罪の匂いが感じられたが、肝心要の殺された天菊太夫と蝙蝠組とのつながりがどうしてもわからなかった。天菊太夫はこうした世界には珍しく身持ちの堅い女。その美しさに惚れて一座に通う男も多かったが、天菊太夫が心の中に秘め続けていた男は清十郎という六、七年前に一座の軽業師だった男。一時は天菊太夫の相手役として羽ぶりもよかったがフトした怪我から醜い容貌となり、人目を恥じて姿を消してしまったのだ。しかし末を誓いあった天菊と清十郎の心は変らず、その後も密かに逢引きを続けており、殺されたその時も悲しい恋に身も心も焼き尽くしていた二人だった。これが天菊太夫のすべて。どう糸をたぐっても殺されるような事実は出てこなかった。ただ気にかかるのは、逢引きの相手である清十郎の消息が知れない事だった。
佐七の鋭い目は、お里と巳之助というもう一組の若い男女に向けられた。この二人は親の許した許婚同志で、天菊殺人の第一番目の発見者でもある。楽しい芝居見物にすっかり甘い雰囲気にひたりきった二人は事もあろうに血なまぐさい殺人現場に出くわしてしまったのだ。
お里はべっ甲問屋・鍬形屋の跡とり娘で、両親はお里の幼い頃に相次いで病死し、江戸でも指折りの大身代は叔父と名乗る新兵衛の手によって管理されていたが、いよいよ婿養子に巳之助か決まり、近々華燭の典を挙げる事になっていた。新兵衛は隣近所の評判も良く、お里への慈愛も真に微笑ましいものがあった。幸福そうに身を寄せ合う叔父と姪。だが佐七の心の奥底には何かしこりの様なものが残っていた。
佐七の不安はみごとに当り、ある夜お里は蝙蝠組に襲われて天菊同様背中に一刺し。だが居合せた佐七の機転でどうやら一命だけはとりとめる事が出来た。
思いがけぬ失敗に業を煮やした姿なき殺人者は、蝙蝠組の弥五郎に命じて佐七を襲わせたが、かえって佐七の手に捕えられるものの口封じの為に仲間の手によって殺害されてしまった。更にはお里の許婚者の巳之助も殺されてしまう。
深く心に期する事のある佐七は決然とまなじりをあげた。佐七の云いつけで鍬形屋におもむいた辰五郎が、病床のお里を江戸城の御典医に診せる事を新兵衛に告げて帰れるのと前後して、南町奉行所の手配も整った。
その夜、お里の部屋に一人の怪しい男が忍び込んだ。とその姿を照らすガンドウの灯りに映し出されたのは、悪鬼の形相物凄いあの鍬形屋新兵衛である。
「御用だ。悪党らしく神妙にしろい」 御存じ人形佐七の小気味の良い啖呵に新兵衛は脱兎の如く逃げ出すが、退路を阻む幽鬼の如き清十郎の恨みの一突きが、見事に決まって新兵衛は倒れた。
親切ごかしで入り込んだ鍬形屋を乗っ取ろうと、蝙蝠組と謀って芝居帰りのお里と巳之助の生命を狙った新兵衛。その邪心の生贄となり若い一生をあえなく終えた恋人・天菊の仇を見事に討ち果した清十郎だった。
無事に事件も落着。どうせ人情家すぎるのが玉に傷の佐七の事、清十郎の身のふり方もなんとか取り計らってやる事だろう。