1960(昭和35年)/10/5公開 87分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:11914
配給:東映 製作:東映
騒然たる話題のうちにグァム島より帰還した皆川、伊藤氏の16年にわたるジャングル生活を描き、戦争のもたらした悲劇を背景に原始生活を送る人間心理を捉えた異色作。
昭和19年7月、グアム島の日本軍陣地は間断なき米軍猛攻撃に晒され、断末魔のあがきを続けていた。日本軍守備隊の大半は戦死、残余の兵力も正に潰滅寸前にあった。累々と横たわる屍の中を、飢え、傷つき、疲れた足を引きずって当てもなく奥地へ奥地へと逃げる敗残兵の群、地獄図のようなその中に足を負傷した高野兵長をかばう皆川兵長の姿があった。激しい飢餓に苦しみながらジャングルを彷徨った二人は、まだ童顔の西村上等水兵と出会った。彼の先導でとある洞窟に逃げ込んだ皆川たちは、そこに住む伊藤兵長他10名程の仲間に入った。西村は、皆川・伊藤の手を借りて、火で焼いたナイフを高野の足に突き刺して弾丸を抜くという荒療治で高野の一命を救った。多くの仲間を得た喜びも束の間、その夜、食糧置場の襲撃に失敗した彼等は米軍の激しい銃火を浴びて分散してしまった。この戦闘で重傷を負った西村は故郷の母の名を叫びながら皆川の腕の中で短い生涯を閉じてしまった。完全にグアム島を制圧した米軍は土民兵を使ってジャングルの掃討にかかった。今は別れ別れとなってしまった皆川、伊藤、高野の三人はその目を逃れてジャングルを転々と移動した。辛うじて野生のバラ芋やパンの実などで飢えを凌ぎ、空罐に雨水を貯めて渇きを癒した。戦争の惨めさが沁々と身に応えてきたある日、皆川は高野とそして、間もなく伊藤ともジャングルの中でばったり顔をあわせた。「生きていたのか!」三人は抱き合って再会を祝しあうのだった。
昭和20年8月15日、遂に日本は連合軍に無条件降服した。5年にわたる太平洋戦争は終わりを告げ、世界に平和が蘇った。皆川、伊藤、高野の三人も米軍の撒いたビラによってこれを知るが、神国日本の不敗を骨の髄まで教え込まれていた三人は、全てはアメリカの謀略であると確信、敗戦を頭から否定した。また、捕虜になれば銃殺されると思い込んでいた彼らは米軍の投降勧告をも一蹴した。皆川、伊藤、高野の三人の本格的なジャングル生活が始まった。米軍や土民兵の巡邏に対する警戒心は異常なほど強かった。寝床は枯れ枝や草を集めて分からないように分散して敷き、お互いの合図は全て「チャッ、チャッ」と舌打ちで行うことに定めた。三人は力を合わせて米軍の廃品捨場からテントやボロのシャツ、蛮刀等を少しずつ拾い集めてはジャングル生活に必要な道具を作った。スプリングは縫い針に、古タイヤは糸に変わった。枯れ木をワイヤーで摩擦し、それに火薬を接触させて火をおこすことにも成功した。しかし塩分の不足から、三人の身体は衰弱を極めた。三人は自動車のチューブで海水を汲み、それを煮て塩を作った。一見平穏に思われた三人の共同生活にも小さないさかいが絶えなかった。体が大きく、ずば抜けて食糧集めの巧みな伊藤は、ともすれば勝手な行動を取りたがった。共同生活に固執する元教師の高野は、これを心よく思わず、おとなしい皆川が常に争いの仲裁役になっていた。
数年の歳月が流れた。ある夜、海岸で美しい漁火に魅せられた三人は激しい望郷の念に駆られていた。彼らは漁船を奪ってこの島を脱出しようと計画した。だが脱島に備えた食糧貯蔵の努力も空しく、かつて彼らの見た漁船はすでに海岸から姿を消してしまった。絶望の涙が三人の頬を濡らしていた。再びジャングルの中へ帰ってきた皆川、伊藤、高野の三人。しかし彼らの生活は無気力化し規律も乱れていた。食糧をめぐってかねてから争いの絶えなかった伊藤と高野の仲は遂に決裂、高野は銃を伊藤に向ける。皆川が必死にこれを制した。遂に三人の共同生活は破れ、高野は一人ジャングルへと姿を隠してしまった。皆川、伊藤二人だけのジャングル生活はさらに厳しさを増していった。それから数ヶ月、友の行方を案ずる二人の許へ衰弱しきった高野が悄然と帰ってきた。「一人では生きられない…」悲痛な言葉を残した高野は二人に見守られながら息を引き取ってしまった。グアム島激戦以来すでに10年が経過していた。つとめて争いの生ずることを恐れた伊藤と皆川は、獲った食糧は全てクジで分け、道具の貸し借りも避けた。また野性の豚を獲るために三日間も石を抱えて豚の通るのを待つという異常な行動もジャングル生活では当然の事となっていた。やがて伊藤が発熱して倒れた。一人食糧を求めてジャングルを彷徨った皆川は、遂に島民に発見され米軍に引き渡されてしまった。一人では生きられないと観念した伊藤もまた、皆川の呼びかけに応じてジャングルを出た。しかし筒井通訳の懸命の説明にもかかわらず、二人は15年前にすでに戦争が終わっていることをなおも信じなかった。
昭和35年5月、日本へ向けて二人を乗せた飛行機が飛んだ。「伊藤さん、あんたいくつになったね」「あんたと同じ39だよ」涙の顔で二人はにっこりうなづいた。